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Re: 臆病な人たちの幸福論【3800突破感謝祭更新!】 ( No.325 )
日時: 2013/03/06 17:04
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)



                     ◆



 まあ、そのような旨を柊子さんたちに伝えた。柊子さんは凄くがっかりしていたが、やはり仕方ない、と呟いた。
 そしてその後、落ち込むことは判るが、事情を知らないダメナコたちを気遣う為に、いつもどおり元気に過ごそう、ということになった。
 んでまあ、普通に飯を食って、風呂に入って、少し駄弁った——わけだが。



「……なあ、聞きたいんだが?」
「ん?」



 俺の言葉に、じゃれあっていたフウと大輝が、動きを止めてこちらを見る。
 ちなみに、時刻は午後十一時。もうそろそろ寝る時間だ。
 ——では何故、俺とフウは同じ部屋に居るのか?
 全然疑問を持っていないのだろう、フウはキョトン、として、こういった。



「え? だって、虎太郎さんが——」
「おいこらジジイィィィィ——!!!!」
「誰がジジィじゃこらああああああああああああ!!!!」


 バッターン!! と、大きな音を立ててふすまが開く——というか、踏み倒される勢いで、虎太郎が出てきやがった。


「アンタ何考えてるんだよ!?」
「あぁ!? テメェそれでも男か!? 柊子の話を聞いた限りでは、お前諷ちゃんに押し倒されていたじゃねえか!」
「まだ誤解されていたのかよチクショウ!」
「わたし押し倒してません!!」


「あれはただたんに、かくかくしかじかであーなっちゃっただけです!!」フウが突っ込んだ。突っ込めるのに、男女が一つの部屋で寝るということに何もいわないことを俺は突っ込みたいが。


「そういうことだ。だから別の部屋を——」
「あ、そういや忘れてた」
「話きけやこら」


 虎太郎のマイペースっぷりに、イラ、と来た俺。だが、次の行動がその上を行くとは、この時思いもしなかった。
 ゴソゴソと、ポケットの中を探って、突き出された右手。
「ほれ、手を出せ」そういわれて、ろくでもないモノだろうなと思いつつ、素直に従った。


 のが、まずかった。
 手のひらに乗せられたのは——避妊具。


「避妊はちゃんとしろよー?」


 虎太郎の素晴らしいほどの爽やかな笑顔に、本気で殺気が沸いた。気付いていたら、足元にあった枕を投げる、もとい枕で虎太郎の顔を殴った。


「いって! 何しやがんだよテメ!」
「よっしゃオメェはとりあえず地獄に落ちろ——!!」
「あぁ!? やるかこら!!」
「ちょっと二人とも、今真夜中——」


 死角で虎太郎に渡されたものが見えなかったんだろう、何も知らないフウは俺たちを止めようとしたが、ヒートアップした俺と虎太郎はそのまま枕投げ大会に持ち込んだ。
 ……が。


「ケンジクン、虎太郎クン。今は真夜中だよ?」


 バズーカ並みの速さで枕を投げた柊子さんが現れて、俺たちは即座に止めた。
 ちなみに、枕は俺と虎太郎の顔と顔の間を通って、壁にめり込んだ。
 柊子さんは笑っていたが——後ろにオーガが見えた。凄く怖かった。




 結局、俺の叫びも虚しく、この部屋で三人寝ることになった。
 勿論、俺とフウを挟んで大輝が寝ることになっている。本当にどうしてこうなった。
 無論、俺は事を起こそうという気はない。全く持ってない。なので、寝ることに務める。が、やはりというか緊張して眠れなかった。
逆に大輝は、既にスウスウと規則正しい寝息をたてている。


「……幽霊も寝るのか?」
「わたしは眠りませんでしたけど……この土地の影響で、眠れるようになっているのかもしれませんね」


 そういうもんなのか、と俺は納得する。
 そしてその後、少しだけ話が途切れた。

 おけらが鳴く音が聞こえる。
 川に落ちる水の音が聞こえる。
 特に意識しなくても、案外聴こえるものだった。それは、全然居心地の悪いものじゃなくて。


「……フウ」


 フウを呼んだが、返事は全くない。
 寝たか、と思いつつも、俺は続けた。


「俺さ。自殺しようと思った時さ、何も感じなければいいって思ったことがあるんだ。そうしたら辛くもないし、何も求めないって。あのバカ母親に、何かして貰おうとか、認められたいとか、そんなこと思えないようになるって。でもどうしても、認められたいって思ってしまったんだ」


 どうしてそう期待をかけてしまったんだろう。絶対、分かり合えるハズはないって諦めているのに。
 今も、分かり合えると思ってしまっている自分が、憎い。


「……どうしてこんな風に思ってしまうんだろうって、思った。バカ母に認められなくても、フウとかが認めてくれるって判っているのに。でも、今日、ダメナコや耕介さんに視て貰えない大輝を見て、やっと判った気がした」


 誰かに認められても、やっぱりどうしても、一番理解して欲しい人が居るんだと。例え応えてくれなくても、それでも求めてしまう人が居ると。
 大輝は納得していたけれど、俺はダメナコたちと大輝に、ちゃんと会ってほしかった。
 ダメナコを、大輝を、全部知るわけじゃない。でも、どちらも会いたいハズなんだ。
 こんな会い方、会ったことにはならないって思った。


「どうして、見えてしまうんだろうな。ダメナコには見えなくて、俺たちには見える。本当は、逆の方がいいはずなんだってずっと思っている。でも、別れを告げたからといって、傷が癒える訳じゃないっていうのも判ってる。……だったら、感じなきゃいいのに、って思った。どちらも辛いなら、何も無ければよかったんだって」


 そう思うんだけど、何処かそう思えないんだよなぁ。
 そう呟いた時、急に眠気に襲われた。




 夢を見た。
 鉄道に乗った夢だ。
 ガッコンガッコン、と、そんな音が響いていた。
 窓際からは、星空と、ススキやリンドウの花が見えて。
 それぐらいしか、覚えていない。

 朝起きた時に、夕べ見た夢のことを考えてみた。
 よく覚えていないし、良く判らないけど、哀しい夢だったと思う。

 それでも、優しい夢だったような気がした。