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- Re: 臆病な人たちの幸福論【杉原ルート更新!】 ( No.340 )
- 日時: 2013/03/25 19:59
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
◆
トポポポ、と、優しい緑茶の香りが広がる。
緑茶のお供に添えられたのは、香ばしい黒豆ボーロ。
「ごめんなさいねえ、こんなものしかなくて」
「い、いいえ! 凄く美味しいお菓子です!」
おばさんは申し訳なさそうにいったが、うちと比べたら天と地の差です。うち、お客さんを招くことが出来ないほど茶菓子なんてありませんから。そもそも父さんが料理下手っぴだしね。お茶出せないしね。
パリパリ、と食べながら、思い出すのは今井の苦しそうな顔。
激昂した優さんにいわれた言葉は、あたしが聞いた以上の言葉もあったかもしれない。
でも、それでしょげるなんて。
「今井らしくないなあ……」
ポロ、と出た一言に、佐藤とおばさんが固まったのを、あたしは知らなかった。
本当、どうしたのだろう。そんな、言葉だけで傷ついて、へこむなんて。刺々しくて、何時もの変態で無神経でデレカシーのない今井とは思えない(酷いいいようである)。
そう思っていると、コトン、とおばさんが、茶碗を置いた。
「……さて、そろそろ買い出しに行かなくちゃ。お店はもう閉めてるし、ゆっくりしてね」
「あ、はい。お気をつけて」
あたしがそう答えると、行ってきます、とおばさんは出て行く。
おばさんが出て行ったのを見計らって、佐藤は、こういった。
「……雪ちゃん」
「ん?」
「雪ちゃんは知らなかったと思うんだけどね……萌ちゃんには、弟が居るの」
佐藤の言葉に、へー、とあたしは返す。
まあ、弟がいるのはそんなに珍しくはない。けど、あんなのでも、姉やってられるんだなあ(酷いいいようその二)。
「……いや、居るっていっちゃおかしいよね」
「え?」
あまり気にせず、ボリボリと食べているあたしの方を見ず、佐藤は目を伏せていた。
「……死んじゃったの。その子」
その言葉に、あたしは手に持っていた黒豆ボーロを、落とした。
◆
春休み、道端で、杏平さんと美雪さんという二人組の大学生にあった。
その二人は何故か、三也沢君を知っていて、二人はあたしに『三也沢健治君って知ってる?』と聞いてきた。怪しいと思ったあたしは咄嗟に嘘をつこうとした時、丁度三也沢君に会って。
二人は三也沢君と、何故かあたしも拉致って、病院に連れてきた。
よく判らないまま、たどり着いたのは、真白の世界で横たわっている少女。
顔を見た時、時間が止まったように感じた。
濡れ羽色の髪は、光の加減で、優しく、濃くあって。
白磁のように、でも生きている人間の頬に持つ赤みは少なく、寧ろ青白かった。
死んでいるように眠っていた少女は、息を呑むほど、とてもとても美しかったのだ。
三也沢君は、そっと、その人の手を取った。
まるで、騎士がお姫様の手の甲に口付けを落とすかのように。
その様子をみて、ズキン、ズキン、と全身が痛んだ。息をすることも苦しくて、出来ればその場で暴れて紛らわしたかった。
でも、その痛みがどんな理由で出てきたのか判らないから、出来なくて。
ただ、ただ、痛みと苦しさに耐えて、耐えて。
その人が、三也沢君の好きな人、フウちゃんだった。
◆
あまりにもショッキング的なことを佐藤がいったので、あたしは疑った。
「それ、どういうこと?」と尋ねる前に、佐藤は口を開く。
「萌ちゃんの弟の空君はね、病弱だったの」
その言葉を始めとして、佐藤は、話してくれた。