コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 臆病な人たちの幸福論【『ぱーとつー』更新!】 ( No.354 )
- 日時: 2013/04/03 18:39
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
◆
聞いた後、思わず、聞かなきゃ良かったと後悔した。
今井が抱えているものは、とても重くて、暗くて、冷たいものだった。
今井もまた、いじめられたことがあった。
遡って、始めにだした出来事は、小学校二年生の頃の話だった。今井は同級生の男子から徹底的にいじめられた。
理由は、「匂い」。もう既に、今井の両親が離婚して、おばさんがラーメン屋を開いて数ヶ月のこと。
染み付いたラーメンの匂いを指摘されて、男子たちがそれを「くせえ」とからかったことが原因だった。更にそれは、今井の生まれつき肌が少し黒いことも関わってくる。
「くせー、豚骨女!」「やーい、ブタ女!」「黒豚—!」
「うるさい!! とっととどっかにいってよ!!」
今井が叫んでも、からかいの声は止まらない。寧ろ、更に悪化した。
教師に相談すると、「こういうのは、反応を見せると、更に面白がるの。だから放っておきなさい」としか、いわれなかった。
でも、黙っていても、からかいの言葉は続く。
辛かったのは、給食のとき。
「うわ、バイ菌だ」「くんじゃねーよバイ菌」「バイ菌がよそったものなんて食べれるかよ」そういわれ続けた。
しまいには、「バイ菌なんだからこんなの置いていいよな」そういって、ハエなどが乗った食べ物を、カメムシの死骸を、今井の机に置いた。
今井が触れたモノは、誰も触らなかった。授業中に発言する時まで、「空気を汚すな」といわれた。
二年の担任は、何もいわなかった。
二年生が終わった後、担任は入院したという。
けれど、もっと辛かったのは、四年生の頃だった。
三年も相変わらずだったのだが、四年は更に酷かった。
なんと、担任までが、「バイ菌」と呼び始め、いじめに加わったのだ。
「お前が、そんな臭いをつけてくるからだろ。肌だって、日焼け止めを塗ればいいじゃないか」
そんな無茶で無責任なことをいって、担任は平気で今井をいじめた。
おばさんに相談は出来なかった。
おばさんは、空君のことで頭がいっぱいだったから。
おばさんのせいでいじめられた、なんて口が裂けてもいえない。空君だって頑張っているのだと、今井は思い直した。
五年と六年は少しだけ収まったが、今井が荒れるには充分すぎる時間だった。
「(なんで、こんな目に遭わないといけないの)」
「(あたしのせい? んなわけない)」
「(あいつらは、難癖をつけて、あたしをおもちゃにしているだけだ)」
「(なのに、あいつらはそれを「当たり前」のようにあたしに押し付けて、あたしの短所や弱みだけを突きつけてくる)」
ザワザワと、腹の底が騒ぐ。
それが余計に気持ち悪かった。
ふざけるな、と声を上げた。
その時、溜まっていた怒りが、爆発を起こした。
中学校に上がって、今井はツッパリグループに入った。
そして、自分がいじめていた奴を探し出し、全員に復讐をした。
「自分がした事を忘れていなかったら、まだ赦せたかも知れない」今井はそういった。
そう、今井をいじめた奴は、今井にしたことを全く覚えていなかったのだ。
今井が暴力を振るっている間、今井をいじめている奴は、皆こう叫んだらしい。「——何故、こんなことをするんだ!」と。
「(何故って、あんたら覚えていないの!?)」
「(あたしが今している悪いことが判っていて、なのに自分がしてきた悪いことは全然気付かないの!?)」
自覚のない奴は、自覚のないままで、人が何をいっても、やっても気付かないままだと、その時今井は知ったという。
それが、腹立たしくて、辛くて、怒りと憎しみは徐々に、自分が見ている世界そのものに向けるようになった。
こうなったのは、母親がラーメン屋を開くようになったせいで。
その原因となったのは、父と離婚したからで。
さらにその離婚の原因となったのは——空だ。
空は何もかもを、あたしから奪おうとしている。