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- Re: 臆病な人たちの幸福論【『静雄のダメな夏休み』更新スタート!】 ( No.386 )
- 日時: 2013/05/16 18:12
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
◆
蝉の声が鳴り響く。
その声を聴いているだけで、日があまり差さない図書室も、温度が上がるんじゃないかと錯覚した。
……満足がいくまで蹴った後、僕たちは忍者——のような青年に、身元を尋ねた。
ボロボロの顔になった青年は、まるでゲ●ゲの鬼太郎のように目を腫らしていた。……そのような顔にしたのは僕らですが。
彼は切れた唇を必死に動かして答えた。
「えー……烏間佐介、十八歳です。高校三年。好きな食べ物は鶏肉と野菜生活で——」
「好みを聞いてるんじゃないんですよ」
「ヒィ!! スイマセン、スイマセン!!」
これ以上ボケをかまされたら話が進まないので、睨みをきかせると、忍者のような青年——烏間は額が床に着くぐらいに頭を下げた。
歳は二つほど上らしいですが……ヘタレ過ぎる。目つきは釣りあがっている癖に、今は情けなく垂れ下がっている。
「……なんで図書室の天井裏に潜んでたのですか、と聞きたいところですが、とりあえずそれは置いといて」
「え、ソレ結構重要なんじゃない?」
「その前に……貴方、この学校の生徒じゃないですよね。他校の人が何でお盆休みに来たんですか?」
僕が聞くと、うぐ、と烏間は怯んだ。
「(ここまで判りやすい忍者っているんだろうか)」
彼を見て呆れながら、しかしこの突飛な状況を整理してみる。
他校の生徒が学校へ来るのは珍しくは無い。他校にも友人はいるだろうから。
しかし、本来なら誰も居ない学校に、わざわざ来るのはおかしい。
しかも、天井裏から降ってきたとなると。
「……忍者っていうか、どっちかというと泥棒っぽいですよね」
忍び装束も、下手したら典型的な泥棒装束にも見える。
僕がそういうと、烏間は血相変えて否定した。
「ち、違う!! 僕は物を盗むためにここに居るんじゃない!!」
「僕は取り返しに——」そこまでまくし立ててから、ハ、と口を塞ぐ。
「取り返しに?」
時既に遅しという奴で、僕も彼女も、その言葉を聞き逃さなかった。
言葉を返した彼女は、彼の目を見る。彼は、視線を逸らした。答えるつもりはないのだと、一目で判った。
僕はその態度にイラついたけど、それにめげずに、彼女は聞く。
「ねえ、何か盗られちゃったの? 事情があるなら、あたしたち手伝ってもいいよ?」
「勝手に僕も含まないでくださいよ」
お人よしの彼女が、優しく彼にいった。ついでに僕も巻き込んで。
だが、彼は「……断る」と、重々しくいった。
「いきなり現れて驚かせたり、弁当をダメにしたりしたことは謝罪を述べないといけないし、その気持ちには感謝しかいえないけれど、——ダメなんだ。忍者は死んでも、自分が持っている情報を漏らしちゃならない。それこそ、恥を晒すことなんだ。だから——」
「図書室の天井裏から抜け落ちてくる時点で、忍者としても人としても終わってると思いますよ、貴方」
言い募る姿がうざかったので、バッサリとわざとキツメに僕はいった。
彼はそれこそ漫画のように、縦線を頭の斜め上に引いて、膝と手を床につけて落ち込んだ。
「ちょ、静雄君!! 落ち込んじゃったじゃん!!」
「なんかもー、面倒になったので。というかそもそも、こんなカッコで図書室の天井裏に潜むことから非常識すぎて恥ずかしいですよ。オチが見えまくりです。三流ドラマですかこれ」
「ま、まああたしも思ったけど……でもなんか事情あるみたいだし! ね、烏間さん、事情を話してくださいよ!」
何故か慌てながらも、それでも親身に接する彼女。しかし、彼は落ち込みながらも、やはり口を固く結んでいる。
彼女の一歩前に出た僕は、彼にいった。
「……何も知らない僕たちは、貴方を不法侵入者及び器物破損で警察に突き出すことしかすることがありませんが。——勿論、見逃すこともしません」
「……!」
彼は驚いた顔をする。
当たり前だ。天井が大きく抜けた上に貴重な本が数冊やられているのだから。
「さあ、どうしますか? やることを果たす前に、警察のお世話になるか。それとも、僕らに事情を話し、協力を仰ぐか。もっとも、協力するのは玲だけですが」
「え、ちょっとぉ!?」
口を三の字にして尖らせる彼女に、「いったのは玲でしょう」と返す。それが気に入らなかったのか、彼女は少し頬を膨らませて反論した。それに皮肉をいれてまた反論する。