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Re: 臆病な人たちの幸福論【『静雄のダメな夏休み』更新スタート!】 ( No.387 )
日時: 2013/05/16 17:57
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)

 そこから彼女とは少し論争になった。
 日常茶飯事なのだが、その様子を見ていた彼は、少し呆けてみていた。が——顔色を取り戻し、固く結んでいた口元を緩めて、笑った。



「……何だか君たち、兄妹みたいだな」
「いきなり何いうんですか。というかそんな恐ろしいこといわないでください」


 ついに手出しも黙認、というような喧嘩も始まって、僕は玲の手首を掴んで必死に否定した。
 彼女が「こんな妹は五月蝿いっていいたいの!?」と怒っていたが、違う。怖いのは君の鬼いさんナンダヨー。


「……こうしてみると、少し昔のことを思い出すよ」


 そういって、彼は一拍置いた。
 グ、という音が聞こえたと思うと、伏せていた目を、力強く僕らに向けた。


「やっぱり忍者失格で、父上に怒られるだろうけど。今警察のお世話になったら、もう誰も止める人も居なくなるだろうし——そうなったらまずいから。しかたがない。話すよ」


 でもその前に、と彼は続ける。
 なんだろう、と僕と玲が思った刹那、




 グゥゥゥゥゥ。



「あ」


 三つのお腹から、大きな音がした。
 ……そういえばご飯、まだだった。



                     ◆


 一方、その頃。


「うおおおおおおお!! はやまらないでくれ、我が妹よぉぉぉぉ!!」
「はやまりそうなのはオメーだよ上田ァァァァァ!!」


 ダダダダダダ、と田舎の道を爆走する男子高校生二人。
 通りすがったモノたちは、真夏日なのにこんなに走って死なないだろうか、と思う反面、若いっていいねえ、とも思っていた。(つまり、大して心配もしていなかった)。
 田んぼのあぜ道を通っているのに、空間を支配しているのは、肌を突き刺すような日差しと、高温を伴った湿気に、途切れることが無い蝉の声。それすらも無視してしまうほど、二人は走った。

 やがて、二人がたどり着いたのは、通っている高校だった。


「……って、学校じゃん。お盆は誰もいないだろ」


 立ち止まった途端、疲れを認知した橘は、かがんでゼーゼー、と死に掛けの呼吸を繰り返していた。


「いや……確か、玲はあの武田とかいうたわけ者と一緒に図書室にいるハズだ」
「あー……そういや、そう、いってたな」


 礼儀正しいが無表情の後輩の顔を思い出しながら、橘は相槌を打った。
 何か、上田は思考を巡らしている。その間に、橘は呼吸を正常に戻した。
 息苦しさが大体抜けた頃に、上田はある答えを出していた。


「……は! まさか、襲われたのか!?」
「何でその一択しかねーんだよお前は! 思考が極端すぎる!! 怪我をしたとかそういうのも考えられるだろうし、というかお前暑さでやられてるんじゃねえの。何、シスコンの次は電波さんですかー?」


 しかし、頭の隅々まで妹のことしか考えれない上田は、更に暴走して、妄想を繰り広げる。


 先生もいない、二人っきりの場所。
 そして場所は、音を吸収して、声は響かない図書室。
 広々とした場所で、玲と奴は……!!


「……今日の殺試合で、息の根を止めればよかった」
「あれ? 今わたくし橘は『コロシアイ』って聴こえちゃったような気がしますんですが……やーっはっはは、暑さにやられて幻聴が聴こえてしまうとはぁー」
「いや……今でも遅くはないな」


 物騒なことを、わざと明るく聞き流そうとした橘だが、暴走する上田はそんな橘の気遣いすら聞こえていない。
 そしてどこからもなく、上田は金属バッドを取り出した。



「……コロスッッッ……!!」
「いい加減にしろよおまえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!! 人の話は聞けよ!!」



 我慢の限界でぶち切れ、叫ぶ橘。しかし上田は何も聞いてくれない。
 も、ダメだ——そう思った時。




               「……あれは、なんだ?」



(その頃、橘先輩は、図書室のベランダに、不審な影を見たという)

(忍者が落ちてくるとき、物語は始まる)
(……かもしれない)