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Re: 臆病な幽霊少女【『参照三〇〇突破記念』更新!】 ( No.39 )
日時: 2012/10/22 21:48
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: FIlfPBYO)

 憂鬱な平凡少女



 あたしには判らない。

 あたしは知らない。

 それらは経験したこともないし、教えてもらったこともないから。

 恋って、愛って。

 一体、なんだろう。




                         ◆

 彼を初めて知ったのは、一年生の秋。

 その日は、とても寒い日だった。冬が近いうえ朝から豪雨という、学生にとっては凄く辛い状況真っ只中。それでも車を使わず、自分の足で登校した私を褒めて欲しい。

 本当に辛かった。手袋をつけると、傘が持ちにくいし。手はかじかんで、歯はガチガチに震えていた。

 だからその時……気をとられていたんだと思う。


 雨音の隙間を縫うように、激しいエンジン音が響く。チカチカと発光するランプが、暗いせいかやけに眩しく見える。

 車が迫っていると、気付いたときには——。





 あたしは、道の端に居たのだ。


「えっ……」


 ドサ、と冷たい土が背中に触れる。上から重いものがのしかかってか起き上がれない。

 車はあたしが目の前に居たことに気付かなかったようで、そのまま通りすがった。


「っててて……オイ、大丈夫か!?」


 男の子の声。

 あたしの上にのしかかっているのは、あたしと同じくらいの男の子だった。


 それが、彼だった。


「あ、う、うん……」


 困惑しながらも、とりあえず返事をする。

 少しずつ、頭が冴えてきた。


 あたしは、車に轢かれそうになったところを、寸の字で彼に助けられたのだ。


 ……状況が判った途端、ゾッとした。

 あのまま、あそこに居たら。彼が駆けつけてくれなかったら。















 あたしは、死んでいた——。


 恐怖と、寒さが一気に襲ってくる。

 恐怖で興奮したのだろうか、心臓がバクバクといい始めた。


 皮膚は寒いのに、血は熱い。




 ガクン、と力が抜けた。


「お、おい!?」


 既にあたしの上からのいた彼が、あたしの身体を支えてくれた。

 そこで、あたしの意識は途切れた。

                    ◆


 目が覚めると、ベッドの上に居た。

 清潔なイメージを強く持つ真っ白い布団は、ふんわりと暖かい場所だった。耳を澄ますと、コツコツと、雨がノックしている音が、心地よい。


 ここは……保健室だ。


「あら? 目が覚めたみたいね」


 柔らかな、女性の声がした。

 机に向き合って書き込んでいるのは、保健室の先生……ではなく、司書の光田芽衣子先生(通称ダメナコせんせー)であった。


「え……? 何でここにダメナコせんせーが……?」

「はった押したろーか。私の名前は光田芽衣子よ」


 鋭いツッコミと、恒例のセリフが返ってくる。

 ダメナコせんせーというあだ名は、せんせーが何時もサボってばかりでいるからそんな名前がついた。


「キミ、登校中に意識を失ったのよ。その場に居た三也沢君が居たから、ここまで運べたけど……」


「三也沢君……」


 あたしの命を助けてくれた、あの男の子の名前だろう。

 ……そういえばあたし、あの子に礼すらもいえなかった。


「しかも今日、保険の先生は出張で居ないし……だから私が居るってワケ。おわかり?」

「何かフンワリしてますけど、判りました」


 頷くと、ダメナコせんせーはあたしのおでこにふれた。

 ひんやりしているけれど、……気持ちいい。

 この人は面倒くさがりだけど、優しい雰囲気を持っているから、あたしは好きだった。


「うん、熱はないみたいね。授業にはいけそう?」


 あたしはコクリ、と頷いて即答した。


「いけます」

                  ◆