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- Re: 臆病な幽霊少女【『参照三〇〇突破記念』更新!】 ( No.40 )
- 日時: 2012/10/22 21:52
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: FIlfPBYO)
教室に入ると、女子たちが一気にむろがって来た。
「大丈夫!?」「身体、重くない?」「一体何があったの!?」
知り合い以上友人未満の女子たちは、心配している……というより、好奇心で集まっている感じだった。
作り笑いで適当にあしらい、あたしはさっさと席に着く。
丁度その時、二時限のチャイムが鳴った。好奇心を満たされず不満だった女子たちは、渋々席に着く。
助かった。女子は、いろんな意味で怖いモンね。
授業を聞き流しながら、あたしはぼんやりと耽っていた。
あたしがすぐに大丈夫、と応えたのは、体調が良かったこともあるけれど、もう一つあった。
家に帰りたくなかったからだ。
あたしの家は、父子家庭だ。
ちっちゃかった頃は、勿論母親が居た。結構、仲のいい家族だったと思う。
小学校に上がり始めて、母は急に、仕事が忙しくなった。
だから何時も父と二人で、家に居た。
その時から、母との溝ができていたのかもしれない。
でも、幼いあたしには、そんなものは感じず、ただひたすら母が好きだった。
母が心地よく帰れるように、玄関の掃除をした。
母がのんびりとできるように、リビングを掃除した。
母が喜ぶように、一生懸命料理を習った。
母が一日の疲れを癒せるように、お風呂場の掃除をした。
……けれど、家に帰ってくるのは、殆どなくて。
そして、小学校六年生の時に、とうとう。
両親は、離婚した。
……母の、一方的な離婚届だった。
もう既に相手が居るようで、戻ってくるつもりはないらしい。
優しく、母を慕っていた父は、あっという間に壊れてしまった。
それから、父とも溝ができた。
仕方が無いことだった。あたしの顔は、母に良く似ていたから。父は、辛い想いを押し込めるのに、精一杯だった。だから顔すらも合わせなくなったのは、仕方が無かった。
父は、あたしを傷つけないように、必死に頑張っているのだから。
……でもやっぱり、家に居るのは辛くて、寂しくて。
反対に、学校は面倒くさいけれど、辛さと寂しさを紛らしてくれる。学校は、あたしの唯一の居場所だった。
だから、たった一つの居場所を失わないように、周りと合わしてきた。
人間って(特に女子は)、つまらないことを責めて、大勢でいじめる。そんなくだらないことにならないように、何時だって自分を誤魔化してきた。
嘘をつく人間って、誠実じゃないかもしれない。でも、仕方が無いんだ。
自分を守りたいから。
傷つきたくないから。
……人間って、やっぱり、自分が一番可愛いんだと思う。
憂鬱な気分を抱きながら、授業が終わるまで、窓の外を見つめていた。
憂鬱な気分に合わせて、雨はザアザアと降っていた。
◆
で、授業が終わった瞬間。
——またむろがってきたよ、女子軍団!!
「ねえねえ、一体どうしたのよ〜」
特にチャラチャラした女子が、迫ってくる。
良くコイツはあたしに絡んでくる。あたし何もしてないのに。目立たないようにして生きてたのに。
コイツが大きな派閥のリーダーじゃなきゃ、さっさと逃げているところだ。
「別に、どうってことじゃ……」
「嘘ぉ。だってユキ、三也沢の野朗に背負われていたじゃん〜」
チャラ女の言葉に、あたしはハッとした。
「三也沢君……?」
「あれぇ、ユキしんないの? ひょっとして、無理やり抱かれた後だったとか? キャーッ!」
ケラケラと笑うチャラ女。
チャラ女よ。おぬしは何故そう下品な話に向うんだい。ってか、どうやったらその発想にたどり着くんだい。
「違うよ。今日、事故りそうになったところを、間一髪で助けてもらったの。何か事故のこと、結構ショックみたいで、ぶっ倒れたところを背負われたみたい」
「ふぅ〜ん? ってか、こんな雨の中歩くなんて、ユキ真面目ぇ。親に車出してもらえばいいじゃん」
むっかつくなあ。そんなことができるほど、うちの家庭は余裕がないの。
何も知らないのに、勝手なこといわないでよ。
……とはいわない。いったら絶対喧嘩になる。面倒ごとはゴメンだ。
それに、判ってもらおう何て思っちゃいない。
あたしは、誰も信用しないから。
友だちなんていらない。寂しさが紛れればそれでいいの。
「でっもぉー、意外だなァ〜。三也沢の野朗が、人助けするなんてぇ」
チャラ女が続ける。
「アイツ、金持ちだからってお高く気取ってやんの? 俺とお前じゃ違うんだァ〜オーラが出ていてぇ、何かムカツク。いっつも根暗に図書館に居るし」
……そっから先は、聞かないことにした。だから、あんまり覚えていない。
どうしてだろうね。何時もだったら、悪口なんて日常茶判事だって思ってたのに。
ふと、思い出すは、彼の穏やかな瞳。
……うろ覚えしかないのに、目だけはやけにはっきりと覚えている。
あの目を思い出すと、悪口なんて聞いていられなかったんだ。
何だか判らないけど、強く想ったんだ。
◆