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Re: 臆病な人たちの幸福論【『超展開になった話』更新!】 ( No.403 )
日時: 2013/06/14 17:26
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)


 叫んでから、気付く。
 元々、こうなった原因は何か。それは、鳥間家の家宝がここにあるせいだからじゃないか。



「大体、貴方が元凶なら、さっと勾玉回収して極道の人たちに見せびらかしてそのまま遠いところへ去ってくれればいいじゃないですか!! 極道の人たちも釣られて貴方を追いかけ、ここを離れるんだから一石二鳥(?)です!!」
「うッ!!」


 びくん、と彼の体が揺れた。
 追い討ちをかけるように、彼の妹である向日葵が、声を上げていう。


「そうよ、兄貴! 烏間家の人間なのは兄貴だけじゃなくて私もだけど、兄貴は次期頭首なんだから、兄貴が回収しないと!!」
「べ、別に僕が次期頭首ってわけじゃ……向日葵だって、次期頭首候補になってるだろ!?」
「そもそも私は、兄貴に勾玉泥棒の疑いかけられたのよ!?」


 柳眉を吊り上げて、向日葵は叫んだ。


「兄貴はすぐに謝ってくれたけど、私が盗んだって思ってる人は兄貴の周りに絶対居る!! 私が取り返したら、更にそいつら付け上がるじゃない! 『ほら見ろ、やはり直系の長女が持ち出していたではないか』って、絶対いう!!」
「お、お前が勾玉回収して、僕に渡して、公には僕が回収したことにすれば……」




 ここで兄妹喧嘩すんなよ。
 そう突っ込みたかったけど、出来なかった。

 その言葉が、引き金だったから。








「…………兄貴」





 冷たい声が、ピタリ、と全てを止めた。
 僕たちの動きも、強いては、今まで戦争状態だった、ヤのつく職業の方々、橘先輩にシスコン魔王の動きまで。
 砂埃も、風も、怒声も、蝉時雨も、何もかもが止まった。
 大げさかもしれないが、時が止まったんじゃないかと思うぐらいに、




 向日葵の怒りは、恐ろしかった。


「……今まで思ってたことだけど、それでも兄貴を信じていたのに……」
「な、なんだよ……」
「私より臆病で、忍びの術も出来なくて、家事すらまともに出来なくて、腰抜けで、才能なくて…………それでも、立派な次期頭首になってくれるって、信じていたのに……この……この!」


 向日葵の声は震えていた。それは怒りだったのでしょうか?
 彼の声も、震えていた。それは、怖さゆえでしょうか?

 いいえ、それだけじゃなかった。










「この、一族の恥さらしものがッ!!」




 向日葵がそういいきった時、僕は、目を逸らさずに向日葵の顔を見た。
 向日葵は、怒り一色だと思っていた。でも違った。
 確かに、怒りで顔を真っ赤にしていたけれど。

 とても、とても、泣きそうな顔でした。



「(あッ——————)」



 やばい、と思った。
 あの顔は、僕は、見たことがある。

 あんな顔を、僕は、させてしまったことがある。
 そして、僕がさせてしまった女の子の顔を思い浮かべる前に、声が遮った。