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Re: 臆病な人たちの幸福論【『兄妹の喧嘩』更新!】 ( No.408 )
日時: 2013/07/04 15:35
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)





「……ってかここ何処よ」
「……アレ?」



 ——けど、それはすぐに終わった。気がつくと、あたしは何処に居るのかも判らなかった。目の前にあるのは二股に分かれる住宅街の中心の道。
 スピードを落とし立ち止まるあたしに、迷子になったと察した向日葵さんは、またもや呆れ顔を見せる。
 う、うう……。


「こ、ここらへんで曲がったのか、真っ直ぐ行ったのか……」
「ここに来る前にも分かれ道沢山あったじゃない……」
「あ、そ、そうでしたっけ?」


 気まずさを拭うためにエヘヘヘヘ……と笑っても、ジト目で見られる。気まずさは三,五倍ぐらい増えた。
 言葉よりも、この人は表情で相手に伝えることが出来るのだ。……器用だとは思うけど、こういう人間って何か怖い。威圧的な意味で。



「……とりあえず戻るか」
「そ、そうですね! ではヨロシクお願いします!」
「……アンタここの地元人でしょ。何であたしに頼るわけ?」
「…………スンマセン」
「……ま、いいわ」


 ため息をついてから、向日葵さんは自分のバックからスマホを取り出した。成程、地図アプリで検索するのか。忍者もそこまでハイテクになったんだなあ……。
 ……いきなり立ち止まったから、どっと汗が出ちゃった。検索も少し時間がかかりそうだったから——といってもすぐだろうけど、殆ど引きこもりであるあたしは少しの間でも休みたかった。電柱の影で涼もうと、足を進めたとき。



「カ〜ノジョ、今暇〜?」



 ——凄く頭の悪そうなナンパと出会いました。
 ……人数は三人。服装はその……それぞれ形容したがたい。しいていうなら皆裾とか引きずったり無理に大きな服を着ている。
 こんな人たち、まだいたんだこのご時世に。


「残念ながら、全然暇じゃないので」


 冷たい返事を返す向日葵さん。目は据わってるけど、スマホ画面から視線を外してないからいろんな意味で誤解されそう。


「あ、ひょっとして怖がってる〜? 大丈夫、俺ら怪しいもんじゃないから〜」


 やっぱり勘違いした。男は下品そうな笑みを浮かべて、向日葵さんの顔に近づける。
 ……当たり前だけど、あたしは眼中にないのね、コイツラ。ホッとしたようなムカつくような。
 逆に向日葵さんは、あたしより随分身長が高くて、腰が細くて、胸が大きくて、スッキリとした顔立ちで、肌が白くて、腕と足が細くて、髪の色が綺麗で……まるでモデルさんだ。この田んぼのど真ん中のような場所(本当は住宅地の真ん中だけど)で向日葵さんがナンパされる理屈は納得。
 まあ顔立ちが整っている人ほど、怒ると怖いわけで……向日葵さんのコメカミには、うっすらと青筋がたっていた。

 今はナンパより向日葵さんが怖いよ。



「なー、一緒に遊びにいこーぜー。名前なんて」


 スパ。
 愉快なまでに響いた音は、向日葵さんの手刀が男の鬱陶しいボサボサの髪を刈る音だった。
 バサバサと、茶色に染めた髪が落ちる。頭のてっぺんはヤカンのごとくツルッツルである。


「……へッ?」


 サアア、と三人の男の顔が真っ青になった。
 刈られた男は恐怖で佇んでおり、刈られなかった後の二人はその場を離れようとした。けれど、向日葵さんはそれを逃さない。
 あろうことか、固まっている男の胸倉を掴んだ。


「……うっさいって……」


 グイ! と、男の身体を持ち上げる。片手で。あの細い腕で、どうやって大体七十キロ前後の男の身体を持ち上げているのだろうか。忍者ってスゴイ。くノ一ぱねぇ。
 般若の顔をした向日葵さんは、そのまま男の身体を花火のように上へ飛ばす。あたしは思わず男の体の行方を視線で追っていた。


「いって……」


 すぐに男の身体は落下する。が、地面に落ちる前に、男は再び持ち上げられた。


「るで……しょうがぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 ……グィィィィィン!! という轟音とともに加速する足によって。
 バキィ!! という何かが折れた音が鳴ったが、気にしないことにしようっと。
 ちなみに、持ち上げられた男は既に気絶しているようで、空中に浮いている際泡を吹いていることが判明されました。
 そしてそのまま、男はグゥの音もいわず、地面と平行に吹き飛び、男二人にぶつかります。



「ひ、ひ……! グハァ!!」
「や、ヤメゲッホォォオォオ!!」



 ついでにぶつかった男二人も平行にとび、突き当たりの塀にぶつかって止まりました。


 シィィィィン……と、あれだけすごい音が盛大に鳴っていたのに、彼らが塀に寄りかかった時には、蝉の鳴き声すらも聴こえていなかった。


「……フゥ。五月蝿いったらありゃしない」


 足を下げて一息つく向日葵さんは、流石といおうか。
 向日葵さんは気を取り直して、スマホ画面に視線を戻した。