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- Re: 臆病な人たちの幸福論【『兄妹の喧嘩』更新!】 ( No.410 )
- 日時: 2013/07/04 15:39
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
カキィン!!
金属音が鳴った。
一斉に、あたしたちの動きは静止する。
反面、空にはバサバサと慌しくカラスが飛んでおり、鳴り止んでいた蝉の声も、再び時雨となった。
「……おい」
止めたのは——あたしたちが探していた、まぎれもない、彼だった。
「お前ら、何向日葵に手ぇ出してるんだ……?」
向日葵さんが望んでいた、向日葵さんの兄さんだった。
ユラアア……と、彼は蜃気楼みたいに揺れる。
何だろう。姿勢はちゃんと、ピシって固まってるのに、ユラア……って揺れているような……。
…………ってか、とてつもなく怒ってる?
突然現れた烏間の次期頭首の登場と、後とてつもない怒りに、その場は呆然となっていた。
全員が感じていただろう。——この空気壊しちゃ生きていけないと。
あたしの頼りない野生のカンもいっている。——あれはまさしく、地獄から来た鬼神だ。が、このまま固まっていても、恐怖と沈黙が流れるだけである。
勇者ヤクザの一員は、その空気を壊す為、努めて明るくいった。
「……な、何だ! 腰抜けの次期頭首かー! 驚かすな」
バキ!!
ヤグサの一員の顔が、吹っ飛んだのだ(ちゃんと体と繋がってます)。
何と、烏間さんが蹴飛ばしたのだ。
……って、え?
「な、な、何しやがるんだ、テメ……」
「『何しやがる』? それはコッチの台詞だ、テメェラ……」
キ、と睨みつけてから、烏間は吼えた。
「向日葵を傷つけようとして……ただですむと思ってんのかぁぁぁぁ!!」
その吼えは、とっても五月蝿くて、とっても滑稽で、それだけどとっても怖くて、
そして……とても、頼りある叫びだった。
ペタン、と向日葵さんが熱せられたアスファルトの上に尻をつく。
「向日葵さん、大丈夫!?」
ヤクザたちが烏間さんのほうへ注意を向けている隙に、あたしは向日葵さんのところに駆けつける。
首のところに少し、切り傷があった。そこからうっすらと、赤い血が染み出ている。
「ちょ、向日葵さん怪我!!」
「……お兄ちゃん」
けれど、向日葵さんはそんなこと気にしていなかった。
向日葵さんの視線は、闘っている烏間さんのほうへ向いている。
荒々しく闘う烏間さん。その姿は、向日葵さんの動きと比べたら隙だらけで、お世辞にも圧倒しているとはいえない(向日葵さんは瞬殺そのものだった)。だけど、とっても強かった。
向日葵さんは大きな涙をためていた。
「……変わってない。全然変わってなかった。昔も今も、優しいお兄ちゃんだ……」
その言葉で、ようやくあたしは、烏間兄妹が一体何を思ってあんなことをいったのか、納得した。
……こうやって、昔は向日葵さんも、お兄さんに守られていたんだろう。
泣いたり困ったり、傷ついたりする時、必ずお兄さんは駆けつけてくれたんだろう。
やがて大きくなって、二人は変わらずにはいられなくなった。
兄妹としての距離が、どんどん遠くなっていった。
だけど、距離が遠くなっても、変わっていないと信じていたかった。
変わって欲しくないと、距離が遠ければ遠いほど、強くなっていって。だけど、距離が遠くなれば、今までしなかった遠慮をするようになって、どういえばいいか判らなくなって……。
……ようやく、ヤクザさんたちが諦めてくれたお陰で、何とか乱闘は終わった。
ボロボロになった烏間さんは、こっちを見る。
その目は、とても穏やかだった。
……どうやって謝るんだろう。
あたしにも兄がいるけれど、最近暮らし始めたばかりだから、とても気になる。
同じ屋根で暮らしてきた兄妹は、一体どうやって喧嘩のケリをつけるのだろう。興味深かったあたしは、静かに見守った。
「兄貴」
向日葵さんが、先に口を開いた。
「……帰ろ」
「……うん」
……意外とあっさり!?
ごめん、とかはなかった。ただ、何時ものように、帰ろう、と。
それでいいのかあなたたち、とあたしは密かに突っ込んだ。——けれど思い直す。
……そうか。
この二人は、確かに言葉が少なくて、色々喧嘩してきたんだろうけれど。
こうやって、言葉がなくても、通じることも出来たんだ。
仲良く手を繋いで並ぶ兄妹の少し後ろで、あたしは歩くことにした。