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Re: 臆病な人たちの幸福論【『静雄ルート』完結! オチはない!】 ( No.415 )
日時: 2013/10/19 20:44
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: MuUNITQw)

 夏は、嫌いじゃ。
 じめじめして、その上気が狂うぐらいに暑い。
 外に出たくなかぐらいに暑い日があれば、叩きつけるような雨が降ってくっと。
 何故か夏になると、無性に怖くて、先が見えなくなって、頭を抱えて、迷ってしまう。

 自分が、よく判らなくなるけん、夏は嫌いじゃ。
 夏は荒々しく来て、ドタバタとめまぐるしく動いて、静かに去ったと思ったときには、自分が実は何も成果ば出していないということが判ってしまうけん。


 ……この町も、嫌いじゃ。
 夏になれば、この町は生傷をまだ抱えていると、良く判ってしまうけん。

 だけど、ここにこない夏も嫌いじゃ。

 自分と向き合わない自分も、大嫌いじゃ。

                    ◆


 長崎は、坂の町ばい。
 急な坂が沢山あって、夏じゃけん暑い中を歩かんといけん。
 既に店ば休んでまで着いてきた千歳さんが、数十歩後ろでくたびれておった。



「……おーい、まだなんかー?」
「もう終わりったい、千歳さん」


 灰色の鳥居ばくぐり、俺は久しぶりにあの子の姿ば確認した。


「あら」


 長い赤い髪に、青い瞳。
 純潔な日本人ならありえないその女の子の顔は、東洋人らしい顔立ちだった。
 その女の子は俺の背丈の半分しかなく、じゃけんど顔立ちは大人びておった。


 夏めく青い、空。
 せみの声と、かすかに木々の葉がこすれた音が聴こえる。
 町の風景が見えるここは、まるで空を飛んでいるようで。


 大きな、大きな、楠の前で。




「また、今年も来たのね」





 今年もまた、変わらずに、あの子は待ってくれた。




                      『思い出と後悔のこの町は、また今日も』







「今年は別の人をつれてきたのね」


 カチン、と氷が割れる音が響く。
神社の中で、俺らは麦茶とカステラを振舞われた。


「……いっつも思うんじゃけど、ホントに神社で食べてええの?」
「平気よ。だって私神様だもの」


 ケロリ、と答える女の子。
 何も知らない人は、この発言ば聞いても子供のたわごとだと、笑うだけじゃろう。

 まあ、何も知らないでここに来る人は殆どいないんじゃけど。


「……なあ、要。この女の子が神様なん?」
「うーんと……」


 そういや、千歳さんには『神様に会いにいくんじゃけど千歳さんはどーじゃ?』しかいっておらんかった。
 まあ、来る時も半信半疑じゃったしなあ。そもそも、神様とそんな気軽に会いにいっていいのかという時点で、俺も疑っとるし。

 どう説明すればいいか悩んでおると。



「あ、いうけど本殿の神様じゃないわよ。私の祠は、楠」
「楠!?」



 千歳さんの瞳孔が大きく開く。
 その様子を見て、ケラケラとおかしそうに笑った。——意地が悪いというか、人を脅したり気味悪くさせるのが大好きなのだ。



「まあ、神っていうより、妖精に近いかしら。わたしはその上の、神霊だけどね」
「ということは、ここはあーたのおうちじゃないってことじゃろ?」



 俺の言葉に、「ピンポーン!」と嬉しそうな顔で親指を上げる。その顔を見て、「祟られるゥッ!!」と、千歳さんが発狂した。

 ……相変わらず、性格変わってないなー、この人。人じゃないけど。