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Re: 臆病な人たちの幸福論【『静雄ルート』完結! オチはない!】 ( No.417 )
日時: 2013/10/19 20:55
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: MuUNITQw)






 なんて、クラスメイトとかに話すと、皆は決まって、「そんな難しいこと、瀬戸には似合わなーい!!」と笑う。
 クラスメイトたちには、世界の大事件のこととか戦争のこととか、昔あったことは、皆「遠い出来事」だと思っているようじゃ。



 けれど、決してそんなことはなか。
 そればいってしまえば、俺の境遇も「遠い出来事」になってしまうけん。



 被爆の話は、俺の境遇と重ねざるをえない。
 俺は、確かに孤児院で育った。親はなく、居たのは親代わりの教員たち、そして多くの子供。

 皆、とても優しい。今も昔も。

 両親が恋しくて泣いた日もあったし、沢山嫌なことはあったけど、決して不幸ではなかった。
 立派な人間になったとはいわないが、一般と比べてもしっかり育ったと自負しとる。



 それでも、社会に出れば、そこで『孤児院』と判れば、そんなことは関係ない目で見られる。
 小学校低学年の若い女教師には、問答無用で『可哀想』といわれ、また、逆に潔癖な初老の女教師には、『愛情がないからきっと荒れるだろう』という目で見られたこともあった。もっと酷かったのは、男子体育教師がそれを強調して、あえていじめを煽らせることもあった。
 今じゃ、孤児院育ちと知って驚くだけになったけど、多分これからも、そういう目に遭うこともあるじゃろう。
 覚悟はしとる。それでも、慣れるとは思わない。——……慣れようとも思わない。




「……広島でも落ちてるけどね。それでも、長崎はとても不安定だわ」



 南っちの曖昧な言葉の意図に、俺は気付いた。
 ……玄海灘には、原子発電所がある。


「2011年の地震だって、原発がなければもう少しマシだったでしょうね」
「……なんで人間はそないな厄介なモノを作ってもうたんか、と俺は思わずには居られへん」
「あら。その厄介なモノから恩恵を授かっているのは誰かしら?」


 シブい顔ばする千歳さんに、南っちは意地悪そうな笑みを浮かべた。


「電気を使うのも金を使うのも人間だけだわ。原発を薦めているのは政治家だけど、その政治家に投票したりなんやしているのも人間だし。急に原発を止めろといって、電気すら作れなくなって困るのは人間でしょう」

「いや、原発だけやなくても、世の中には太陽光やら水力発電やら風力発電と色々あって……」


「太陽光は夜や雨の日には作れないでしょ。水力発電をするにはダムだって必要だわ。自然に与える被害を人間はどう償うというの? 風力発電だって、あの羽が壊れて何処かへ落ちたら悲惨よ」

「……いや、後半らへんは考えすぎじゃ……」

「考えすぎかしら? 台風とか竜巻とか、日本には絶対に訪れるものがあるというのに。風力発電の羽じゃ、竜巻に運ばれてもおかしくない。飛んでいった先に、人が居ないなんて考えられる? そんなことないでしょう?
 原発も同じで——この国は、地震があって当然の国であるというのに、お偉いさんたちはそんなことも予想せずに作ったというのかしら?」




 一方的な言葉の数。
 千歳さんには、反論させる隙もなく。
 南っちは、意地悪く笑みを浮かべながら、こう締めくくる。


「答えはNO。人間たちは繁栄の代償を知っていて、それを見ていないフリをしているだけよ」



 ——何かば得るには、何かを犠牲にしなければならない。
 当たり前のことだった。




『美味しいモノを食べたい』と思うのなら、動植物ば犠牲にしなければならない。
『勝負に勝ちたい』と思うのなら、自分以外の人間に負けば押し付けなければならない。
『何かを成し遂げたい』と思うのなら、沢山の時間ば犠牲にしなければならない。




『誰よりも幸せになりたい』と思うのなら、誰かば不幸にしなければならない。




 ……皆、気付いているのに、それば無視している。
 そして、いうのだ。『どうしてこんな目にあわなきゃならないの』と。



『何で、自分たちの土地だけ、爆弾が落ちたのか』
『どうして、生きのびてもなお、爆弾のせいで苦しまなければならないのか』
『自分は健康なのに、どうして『もうすぐ死ぬ』という目で見られなければならないのか』



『どうして俺のお父さんたちは死ななければならなかったの』



 自業自得だと、因果応報だと、誰かが囁く。
 自分だって、誰かが犠牲になることば目を瞑っていたくせに。



「今、『原発反対』とか色々いってるけど、そうなったら、原発で働いている人たちはどうなるかしらね。職も無くなるし、何よりも差別の目で見られるんじゃないかしら。『何故人に迷惑がかかるような職についてんだ』ってね」