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Re: 臆病な人たちの幸福論【『静雄ルート』完結! オチはない!】 ( No.418 )
日時: 2013/10/19 20:57
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: MuUNITQw)


『原発反対!』って皆いうけど、多分、危険区域として故郷ば追い出された人たち以外は、又聞きだったり、事情ば良く把握していない人が多数じゃと思う。
 自分たちはよいことばしている、正しいことばしている、と思い込むだけの人間は、かなり酷いことばいっていることがある。
 自分がそういったせいで、何ば犠牲にしていることも知らずに。




 二人が死んだのは、車に轢かれたせいだった。
 勿論、それは相手がルールを守っていなかったからだけど。
 けれど、車ば使っていたのは、両親もだ。


 車がなければ、あんな事故が起きることもなかった。


 ……なんていっても、人々からは変な目で見られるだろう。
 だって、車は便利じゃから。
 車がなければ、出来ないことも多くあるけん。そんなことは、考えなくても身に染みているけん。

 でも、例えば、もしもの話で。
 車に轢かれたせいで、沢山の人が死んでいて。
 残された遺族や、事故に遭うのが怖いと思う人たちが、声ばあげて、車ば作ることを反対したら、きっと、もう事故で死ぬ人は居なくなる。
 車がなければ、きっと俺は、二人と慎ましく暮らしていたと思うばい。

 そいけど、そうなれば、とても大変な目に会う人もいる。
 車がなければ、会いたい人に会えない人も居る。救急車もパトカーも消防車も使えなくなる。車がなくては、間に合わないことが沢山ある。


 戦争だってそうじゃ。原爆だってそうじゃ。
 勿論、アメリカが長崎や広島に原爆を落としたことは、落とされたことは、許されることじゃなか。
 けれど、もしも。仮に、二つの県に原爆が落ちずに居たら。悲惨さを味わっていないまま、威力の犠牲を軽く見るどころか見てみぬフリをして、アメリカのように、日本もどこかの国に原爆を落としたかもしれん。

 日本は、戦争を止めずに、まだ他の国を虐げておったかもしれん。
 そしたら、今流れるこの平和もなかったかもしれん。
 他の国に、沢山沢山恨まれていたかもしれん。
 ……ご先祖さまたちが、他の国にとっても酷い事をしたということに、気付かずに、寧ろ当たり前のように過ごしておったかもしれん。









 ……そんな未来も、とっても恐ろしか。
 どれをとっても、どうあろうと願っても、結局、誰かは、何かは犠牲にならなければならない。




「(原始時代に遡ったら、人は戦争もせんし地球温暖化問題も資源問題も政治問題もお金問題もなかとに……)」



 結局、どんなに時が過ぎても、人間は愚かなだけじゃろうか。
 それとも。時が流れるだけ、人は、悪い方向へしかいけんくなるんじゃろうか——————……。














「……それは、違うわ」


 穏やかな顔で、南っちがそういった。
 どうやら、声に出してたみたいじゃ。


「昔のほうが豊かだなんて、そうは思わないわ」
「……どうしてそう思うん?」
「だって、大大大昔には、緑茶とカステラがないから」


 ドヤ、と答える南っち。
「……それだけなん?」千歳さんがなんとも形容しがたい表情で聞き返す。
「まさか」南っちは答えた。


「後、漫画もないしテレビもないしそしたらアニメも見られないしパソコンもないしそうしたら2ちゃん見られないしニコニ●動画見られないし……」
「……神様ってこんなんでええの?」



 千歳さんが呆気になって呟く。気持ちは判るばい。



「……この地は、原爆が落ちた場所だけじゃない。キリスト教の人々が多く死んだところでもあるわ」
「……」
「反面、この町は、外国との貿易も盛んだった。唯一許されたのが、出島だったからね。そして、美味しいお菓子や、外国の文化、医学、科学、陶芸やガラス、様々なものが取り入れられ、ここで発達していった」



 ——そこに。
 そこに、沢山の血が流れたとしても。
 ひょっとしたら、自分も殺されてしまうかもしれなくても。
 そこで知った知識が、何かを犠牲にしてしまうモノだとしても。

 それでも人々は、宗教の自由を、医学の発達を、広い世界に出て、勉強できることを、沢山のことを選べることを夢見て、信じていた。
 そうしてやっと、長い鎖国が終わって、日本人は、沢山の文化を取り入れ、自分たちのモノにしてきた。




「過去は、自分の誇りにするもの。今は、自分がなにをしたいかを決めること。……未来は、夢を見るもの。
 だから、現在よりも過去のほうが豊かだなんて、思わなくていいのよ。未来がとっても悪い方向へ進むなんて、そんなことはないのよ。
 未来は、より良い方向へ進む。……私は、そう想うわ」



 サラリ、と優しく小さな手が、俺と千歳さんの頭を撫でた。
 その様子は、まるで母親のようで、俺と千歳さんは、子供のようで。



 俺は、未来に期待してはならない、と何処かで思っていた。
 期待するということは、未来に縋るという意味だと思っていたから。縋るだけで、今努力することを放棄しそうだったから。そうしたら、何だかとても、失礼だと思ったから。


 因果応報、自業自得。
 それでも、やっぱり。戦争で、沢山の人が死ぬことや、交通事故で、あの二人が死ぬことは理不尽だと思う。

 繁栄の裏には、目をあわせられないほど痛々しい犠牲がある。
 繁栄を目指さなければ、何も変わらなくなってしまう。そうなってはいけないから、痛々しくても犠牲を受け容れなければならない時がある。


 どんなに時が進んでも、全員が幸せになることは、ない。
 判りきっていたことだった。