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Re: 臆病な幽霊少女【『参照三〇〇突破記念』更新!】 ( No.42 )
日時: 2012/10/22 22:04
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: FIlfPBYO)


 ……恋なんて、あたしには無縁のモノだと思っていた。

 チャラ女たちも、母も、コロコロと好きな人を変えるからだ。

 それは、恋なんだろうか? コロコロと変えるほどなら、そんなに恋に必死にならなくてもいいんじゃ?

 少女なら憧れている恋も、あたしにはうそ臭く感じた。





 ……恋している少女の皆さん、馬鹿にしてごめんなさい。

 ただいまあたし、恋しちゃってます。




 何時の間に落ちていたのかは知らない。でも、自覚すればするほど、恥ずかしかった。

 でも、もっと居たい。もっと居たいって想い始めて。

 その気持ちは、どんどん膨れ上がってきた。



 あたしは次の委員会決めの時、図書委員になることを決めた。

 また、彼も図書委員になるだろう。何となくそう思ったあたしは、疑うことなく選んだのだ。

















 ……でも、彼は、図書委員にはならなかった。






 ダメナコせんせー曰く、「彼は委員会じゃなくても図書室に居たのに、最近パタリと来なくなった」といっていた。

 あたしも、たまに彼とすれ違った。けれど、やっぱり違った。

 ……優しく微笑んでいた彼は、悲しみに沈んでいるような表情だった。



 何かあったんだろうか? 心配になった。

 でも会いに行くほど、あたしは強くはなかった。

 三也沢君は、浮いている。

 何もなく隣に居るところをみられたら、あたしまでういてしまうんじゃないか。……そんな心配が、あたしの頭を過ぎった。

 なんて、臆病なんだろう。でも、こうするしかあたしは自分を保てなかった。


 きっと、この気持ちも薄れる。会わなければ、きっと消える。

 そう思って、自らも彼を避けだした。


 それから、彼とは会わなくなった。

















 それから淡々と、一年が過ぎた。

 相変わらず、あたしは図書委員で、ダメナコせんせーの仕事を手伝っている。たまにダメナコせんせーに薦められて、宮沢賢治の本とか読んだり。最近、ちょっとはまりだした。

 そんなこんなで、結構目まぐるしい生活を送っている時に、



 あたしは、彼の姿を見た。



 あたしが出張に行っているダメナコせんせーの代わりに、古本の整理をしていたのだ(いつもの事だけどさ)。

 図書室には奥の部屋というのがあって、いつもは鍵が閉まっている。ところが、今日は開いていた。気になってみたところ、そこに居たのは彼だった。


 一年ぶりに見た彼は、身長が高くなっていた。
 でも。


 あの、優しい瞳は、変わってはいなかった。


「ごめん……」



 え?



「ごめんな、フウ……」



 あたしから見て、三也沢君は背中を向けている。

 けれど、判った。




「ごめん、ごめん……」



 ——彼は、泣いていたのだ。




「お前のこと、何にも判ってやれなかった……本当にゴメン」




 どうして、彼は泣いているんだろう。

 フウって、誰のことなんだろう?



 ……何だか、怖かった。

 でも、聞かずにはいられなかった。



 息を潜めて、あたしは彼の様子を静かに観察する。





「……せめて、お前にさ」


 やめて。


 何となく予想できた言葉に、思わず静止の念を唱える。

 そんなに聞きたくなかったら聞かなければよかったのに。





「『好きだよ』……って、伝えたかった」


 聞いてしまった。












 ……ゆっくりと、後ろに下がって。
 気配を感じ取られないように、あたしは図書室を後にした。

                ◆

 ……次の日。あたしは、ダメナコせんせーに彼の話を少しだけ聞いた。
 あたしは、彼のことを何にも知らなくて。


「(お母さんと、上手くいってない、かあ……)」


 ホウ、と、白い息が出てきた。

 フワフワと、雪が舞う。……あたしと同じ名前の、雪。








 あたしはね。良く、判らないんだ。

 彼のことを何にも知らない。

 知りたくても、臆病ですぐ引っ込んじゃう。でもね。




 やっぱり、好きなんだよ。

 気持ちが、抑えきれないほどあたしの頭を満たしているんだよ。

 薄れてなんかいなかった。ましてや、消えてもいなかった。あふれ出しちゃうほど、好きで好きで。

 そして、苦しい想いが広がるんだよ。






 悲しい? 辛い? 寂しい?

 いいえ。






「切ないなあ」




 これは、『切なさ』なんだ。




                  憂鬱な平凡少女は、自身を罵る



(あたしの独り言は、)
(灰色の空に響くことなく、消えていった)

(どうしようもないなあ、あたし)