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Re: 臆病な人たちの幸福論【『第五部開幕です!』】 ( No.435 )
日時: 2013/07/24 18:22
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)



 ワンワンと泣き喚く面々。むさくるしい絵面である。


「ちっくしょぉぉぉぃ!! モテたいんだぁぁぁぁ!」
「この下りどっかで見たなあ」


 ついに、狂った橘が校庭に向けて叫んだ。どれだけ欲求不満なんだ、こいつらは。夏の暑さで不満が膨張しているのか?


「もう誰だっていい!! 誰だっていいから付き合ってくれぇ!!」
「それは何処かのボカロ曲を思い出すが気持ちは判るのだよ橘ぁぁぁぁぁ!!」
「ちくしょー!! リア充だなんて爆発しろー!!」


 部活で鍛え上げた大声を今ここで使うダメな高校生。
 静かに飯を食わせてくれ。ただでさえしょぼいパンだけなのに。







「——付き合えたら、誰でもいいの?」



 五月蝿い男どもの声を、少しだけ高い声が遮った。
 後ろを見ると、錆びたドアの入り口から、少しくすんだ金髪の髪がチラリ、と見える。
 アルトの声と、くすんだ金髪。頭の位置から考えて、低い身長の人間。
 その人物に、俺は心当たりがあった。


「……ひょっとして、レオか?」
「うん!」


 レオこと——レオルト・ナレインは、今度はちゃんと顔を出して、無邪気な笑みで頷いた。


 レオは、高校二年生の時のクラスメイトである。
 高校二年生の時に編入してきた彼は、自己紹介の際、少しなまった日本語で、こんなことをいっていた。


「ミーは、両親の都合で色んな国々を歩き回っていて、その際二歳まで日本にいました。
その時の記憶はもう忘れてしまいましたが、ある日日本の食べ物食べて以来、日本があまりにも好きすぎてついに! この学校に編入してきました!」


 なので、親睦会のときはおにぎりを食べたいです! と、とんでもない笑顔でいって、クラスに微笑ましい空気を作ったとか、なんとか。
 とにかく、とても日本が大好きなのである。——ただ。




「三也沢の知り合いかー! とにかく、ここに来たら?」


 橘が気さくにそういうと、レオは血相を変えて、必死に横に振った。
 何で? と上田が聞くと、レオはガチガチと歯と声を震わせていった。


「だって、そこは、屋上から飛び降り自殺した女学生が生温かい生き血を求め、屋上に来た生徒を殺す怪談で有名でしょ!?」




 レオは、日本が大好きだ。——ただ、とんでもなく、怖がりで、日本の怪談とかそういうのは大嫌いであった。

 レオの表情と理由に納得した橘は、あー、と懐かしそうな顔でそれぞれ呟いた。


「そんな噂もあったねー」
「忘れていたのだよ」
「何で平気に忘れられるの!? 怖いじゃん!? 怖いじゃん!?」


 アクション映画に出てくる怪獣のごとき口を開けて叫ぶレオ。
 というかその幽霊、正体フウだし。しかもかなり脚色されてるし。
 ……フウが怪談の幽霊だったっていうことを知ってる人、少ないから仕方がないけど。

 橘が苦笑しながらいった。


「そんなの気にしてたら学校に来れないよー? この学校、トイレの花子さんとかそういうのいっぱいあるし、第一この時期は怪談話がおお」
「うわあああ! そんな怖い話いわないでぇ!」
「……え、これ怖い?」


 慰める兼励ますつもりでいったのだろう。だが、泣きじゃくりながら耳を押さえて叫ぶレオに、少しビックリした橘が、俺に答えと視線を求めてきた。知らないよ。