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- Re: 臆病な人たちの幸福論【『第五部開幕です!』】 ( No.447 )
- 日時: 2013/08/07 17:36
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
朝日が差し込んだ時、ワタシは何も判らなかった。
記憶喪失の口裂け女の話 一
夏らしく、その日の朝は眩しくて、暑くて。
これだから夏は大嫌いだ。中々二度寝ができない。いや、寒すぎて目が覚めても中々温い布団から出てこれない冬も大嫌いだけど。やっぱり、春と秋がいいよね。
「ああもう、眩しいなあ……」
文句をいいながら目を覚ますと、全然知らない部屋にいて、全然知らないベッドに寝かされていたのだ。
……ちょっと待て。
知らないベッドとか知らない部屋とかいってるけど、ワタシ、どこに住んでいたっけ?
というか、ワタシって?
ワタシって、誰だっけ?
ココハドコ、ワタシハダレ?
「……ちょっと待てぇい!!」
ここで漫才風にするなら手刀で自分の頭を叩きたい。
というか、何ワタシ。自分の名前すらも思い出せないの!? ああ、自分の歳も顔も何一つ思い出せない!っていうかベッドとか漫才風とか昔懐かしの台詞は思い出せるのに、なんで自分のことは全部忘れているわけ!?
などという、自分に向けての怒涛のツッコミが、ワタシの脳内で行われていた。
「……い、いや! 大丈夫!」
焦りすぎたワタシは、訳が分からないまま慌てて上半身を起こして、ガッツポーズをとる。
ワタシは今ちょっと、寝ぼけてるだけさ! ほら、よくあるじゃない!! そう、これは夢半分! というかまだ夢の中なのよきっと!!
「そのうち、夢は醒める。そのうち、思い出せる……」
気持ちを落ち着かせる為に、催眠術のように言い聞かせる。
すると、全部の感覚が麻痺してきて、へばりつくような暑さも、蝉の鳴き声も、太陽の眩しさも全部無視して、コテンと眠りに落ちた。
「ああもう……最悪だああ…………」
——けれど、もう一度目が覚めても、結局状況は変わらなかった。
気持ち悪い。何かって、すべてに。この現状に、こんな現状に置かれた自分に。あと、テンパりすぎて妙な過ぎるテンションだったさっきの自分に、ドン引きした。
なんでこうなってるんだ……ワタシは階段から落っこちたみたいな、頭にとんでもない衝撃を受けて記憶喪失になったのか!?
「……とりあえず、落ち着けよワタシ」
自分で自分にツッコミを入れている時点でもうおかしいかもしれないが。
ワタシは、ベッドから離れる。
とにかく、思い出せないことは今悩んでも仕方がない。今できることは、動くことだ。
この部屋がワタシの部屋なのか、それとも別の人の部屋なのか、確かめなければ。ひょっとしたら誰かいるかも知れないし。
どうやら、ここはアパートの一室のようだった。
洗濯物は、綺麗に畳まれていた。
ほこりも、ほとんどない。道具も綺麗に片づけられている。
部屋の広さからして、そう何人も住めない。一人かギリギリ二人で住める程度だ。
どこもかしこも丁寧で、一瞬女の人の部屋かな、と思ったが、洗濯物の服が全部男物だし、化粧品も全然ない。
「やっぱ、男の人の部屋……?」
それってワタシ大丈夫なの? 誘拐されたとか、襲われたとか、監禁とかされてるんじゃないの? と思いつつ、鏡を見たとき。