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Re: 臆病な人たちの幸福論【『第五部開幕です!』】 ( No.449 )
日時: 2013/08/07 17:58
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)



「……アレ」


 ……何て、さっきまでしていた妄想がぶり返す寸前、ワタシは気づいた。



「何でアナタは……ワタシの顔見て、何とも思わない……んですか?」



 明らかに、この口はおかしいのに。
 さっきから、この男はノータッチだ。

 すると、瀬戸要は、キョトン、とした顔で、




「別に何も思わんわけじゃないけど……」



 そういって、爽やかな笑みを浮かべていった。





「やーらしかなあ」




 その言葉にブチ、と頭に来て、気づいたときには手を出していた。
 その拳は、思いっきり瀬戸要の顎にクリーンヒット。



「いったたたた……なんばすっとー?」
「黙れ変態!」


 さ、と後ろに下がって、戦闘態勢に入る。助けられたと思って敬語を使っていたのに、この時点で素のまま話すことにした。



「え!? 褒めただけやのに!?」
「いやらしいって言葉が褒め言葉なわけないだろ!!」
「あ、そっちの意味にとられたん俺。ちゃうよ、いやらしいって意味じゃなか。可愛らしいって意味ばい!」



「……は?」
「……肥前弁とか、一部の九州地方じゃ、「かわいい」は「やーらしか」っていうとよ。あ、ちなみにとても可愛らしいは、「こやーらしか」っていうばい」




 変な豆知識なんてワタシの忙しい脳は受け付けなかった。
 それよりも、自分の顔が「可愛らしい」っていわれたことに、頭が混乱していた。



 かわいらしい……? こんな顔してんのに……?
 え、え、え、……。


 そんなの、初めていわれた。いやワタシ、記憶喪失だけど。
 でも、記憶を失う前も、こんなこといわれたことないと思う。記憶喪失だから、自信持っていえないが。




「〜〜〜〜〜〜!」
「……顔真っ赤じゃけど」
「う、うっさい!」


 ダメだ。これ以上、こいつに喋らせてはいけない。心臓に悪い……!
 そ、そうだ。


「というかアナタ、ワタシに何か聞くことがあるんじゃないの!?」


 ワタシの記憶喪失とか、ワタシの顔とか、そういうのを聞くべきなんじゃ!?


「……住む場所どうすっと?」
「聞く場所ちっがあぁう!」
「え、いや大切じゃろ。名前すらも忘れてしもうたんじゃ、自分の家も判んないじゃろ」


 ……確かにそうだ。いわれて初めて気づいた。
 名前や自分の素性が判らないのも危ないが、住むところがない方がもっと危ない。


「何でワタシそんなことに気づかなかったんだろ……」
「うっかりさんじゃなー」
「もう黙ってアナタ」



 この顔、記憶喪失、更に生活困難。
 帰る場所がない。というか、お金一銭も持ってない。おなかも空いたし、服も少ないし、この状況は明らかに不味い。これからまともに生活できないではないか……!
 そもそも、ワタシは記憶喪失だ。今のところ知識や一般常識は忘れていないようだけど、「今のところ」というだけで、これから喪失していたという事実が発覚するかもしれない。



「あれ……知らない所でワタシの人生the end……?」
「なかと?」
「無いデス……」



 どうしよう。どうしようも何も、まずお金がないし、そもそもあまり顔を出したくないこともある。このまま一人で生活するのは、かなりのハンデだ。ってか無理だろ。



「……んー、それじゃー、さっきいった俺の母親みたいな人の家に泊まる?」
「……あ、寝ている間ワタシの服を着替えさせてくれた人ですか」


 うすうす気づいていたけど、その話は本当の話だったようだ。
 その人がどんな人か知らないから、少し怖いけど……この際わがままはいってられない。


「あまり人と接したくないから……出来ることならそうして欲しいけど……」
「あ、でもその人の家、殆ど孤児院じゃけん、子供とは接しなきゃならん……」
「はい却下!」


 めっちゃアウトだよそれ!
 こんな口みたら、小さい子供は怯えるにきまってるじゃん!


「……そんなにも人と会いたくなかと?」
「ええ」


 良く判らないという顔をする瀬戸要。本当にこの男、ワタシの口にノータッチだな。


「……んじゃー、言いにくいんじゃけど……」
「何? なんかいい方法あるの?」



 意外だ。この男、少し頬を赤めてる。
 いったい何をいうんだろうと聞く構えとったとき、この男はとんでもないことを言い出した。





















「俺の家に……住む?」




           成り行きで一緒に住むことになりました


(あまりにも突拍子だったけど、それ以外方法はなかったので)
(とりあえずその場は、そういうことになりました)

(って、何でこうなった!?)