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Re: 臆病な幽霊少女【憂鬱な平凡少女編 完結!】 ( No.47 )
日時: 2012/10/24 18:32
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: FIlfPBYO)

『参照四〇〇突破記念 健治と諷子で【喜怒哀楽】』


【喜】

「さあさあ!! 今日こそケンちゃんに『シグナスとシグナレス』の魅力をわからせてやりますよ!!」

 バン!! と、机を叩くフウは、嬉々として大きな目を更に開き、キラキラとした目で迫ってきた。思わず後ずさりする俺。

「とりあえずいおう。図書館ではお静かに」

 だが、頭のネジが吹っ飛んだ彼女には届かない。

「そんなセオリーは、今のわたしには通じないんです!!」

 通じないのかよ。ダメじゃん、常識忘れたら。

 そんな俺の切実な願いも通じず、フウは語り始めた。

 この時間は、その魅力を未だに判らない俺にとっては、拷問と同じである。


 でもまあ、フウの喜ぶ姿を見れたら、



「ちょっと、ケンちゃん聞いてる!?」

「はいはい、聞いてますよ」



 そんなことは、どうでも良くなるのだ。


        俺は気付かれないように、笑う


(頭のネジが吹っ飛んでいるのは、実は自分かもしれない)










【怒】

「ケンちゃんはさー……」

「ケンちゃんいうな!!」

 相変わらず、彼はこの呼び名が嫌いのようです。わたしは可愛いと思うんだけどなあ。

 ほら、やっぱり怒る。その様子が可愛くて、思わずからかってしまうんです。

「笑うな!」

 彼の痛烈な言葉が飛んでくる。あらわたし、笑ってた?

「ごめんなさーい、気付かなかった」

「棒読みだなオイ!!」

 そんな風に過剰に反応するから、思わずいじりたくなるんですよー。

 なんて、思ってたら。

「おーまーえーはーなー」

 柳眉を吊り上げた彼の顔が近づいてくる。

 ……ん? 近づいてくる?



 トクン、と心臓が一つ鳴る。

 トクン、トクン、トクン。

 その音はやがて、バクンバクン、と激しく鳴り出した。


「人の嫌がることは、しちゃいけないって教わらなかったのかよ……」

「っひ」


 彼とわたしの顔の距離、ほぼ〇距離。

 端正な顔、特に綺麗な瞳に目を奪われ。

 心臓が激しくなって、頭が沸騰して、何がなんやら判らなくて。

「……『っひ』?」

 キョトン、とした彼の表情で、羞恥心に止めを刺されたわたしが取った行動は。

「……ちょ、何顔を近づかせてるんですか——!!」

「グハッ!!」






 ——叫んで、彼のみぞにパンチを食らわせました。



       愚直は美徳ですが、愚鈍は罪です!

(「ひひひ人の嫌がることはしないっていったのは、どこのドイツ人ですか——!!」「……解せぬしつまらない」)








【哀】

 休みの日、ベッドでゴロゴロとしていると。

 うとうとと、ひっそりと忍び込んできた春の暖かさに誘われ、俺は眠ってしまった。






 夢を見た。

 あの奥の部屋で、フウと俺が、本を読んでいる夢だった。

 色んな本を読んでいた。何の本を読んでいたかは忘れたけど。

 多分、全部ハッピーエンドに終わった話だったと思う。


 たまに、フウが話しかけてきて、俺が適当に相槌を打つ。

 それだけだったのに。







 俺は、幸せな夢から覚めた。

 見えたのは、憂鬱な現実。

 アイツがいない、辛く厳しい現実。


 夢っていうのは、随分身勝手で残酷だ。

 手が届く瞬間に醒めてしまう。それはとても辛いことで。

 だったら、夢なんて見なければいいのに。



「……なあ、フウ」


           俺は、お前と出逢いたくはなかった

(そうは思っても、夢のような出会いは、忘れたくないと強く想うんだ)






【楽】

 その日は、奥の部屋に行くのに、いつもより遅く来てしまいました。

 慌てて到着したとき。

「(あら)」

 彼は、机に突っ伏して寝ていたのです。

 手には本が添えられていました。きっと、本を読んでいる時に寝てしまったんでしょう。

 ですが、このままではいけません。まだ十一月とはいえ寒いですし、ここには暖房がないので、風邪を引きます。

 丁度良く彼の足元には毛布がありました。きっと、司書のコーヒー先生がかけてくれたんでしょう。で、ずるずると落っこちたと。

 一応毛布は彼に触れていたので、幽体のわたしでも触れることが出来ました。

 重い毛布を彼の肩に掛けてやります。久しぶりに毛布を持ったので、ちょっと持ちにくかったです。

 その時、ちょっとわたしは切なくなりました。




 わたしは、彼のように眠ることは出来ない。

 本来ならば、こんな風に過ごす事すら、許されなかったハズなのに。

 ……こんな風に気持ちを抱くのは、生きている人間だけの特許なのに。



「……怖いなあ」


 そっと、一人で呟きました。

 何時、終わってしまうんでしょう。この楽しい時間は。

 ……一人になってしまう時間に、戻ってしまうのは何時でしょう。





 その時、わたしは耐えられるでしょうか。



「……フウ」


 くぐもった声が、耳に届きました。わたしは驚いて、ざっと後ろに下がります。

 ……ですが起きる様子もない。どうやら、寝言だったみたいです。


 そう思った時、わたしは頬に熱が集まりました。

「……寝言で名前を呼ばれるのは、些か恥ずかしいですよ、ケンちゃん」

 こっそりため息をついて、わたしは毛布を手に取る。





 こそばゆい感じ。嬉しい感じ。度々切ない感じ。

 ……ひょっとしたら、これら全てを纏めて、楽しいと呼ぶのかもしれません。





 もぞもぞと、毛布の半分は自身に掛けて、わたしは彼の肩に寄り添いました。


「(……寝顔でも、綺麗な顔だなあ)」


 フッと微笑んで、わたしは瞼を閉じます。
 ……わたしは眠れませんけど、たぬき寝入りなら得意ですよ?




 起きたら彼、どんな顔するんだろうなあ。




 何て思いながら、わたしは時間に身を任せました。




 ……何もしていないのに、幸せな時間。





               今はまだ、続いて欲しい



(今だけじゃなくて、これからもずっとと思うのは、わたしのワガママだろうなあ)