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- Re: 臆病な人たちの幸福論 ( No.471 )
- 日時: 2013/09/04 22:55
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: MuUNITQw)
口裂け女と労働青年の日々 一
変化は、唐突にやってきた。
あいつと暮らし始めて、千代という名前も持って、そろそろ一週間になる頃。
ワタシは変わらず、人目に触れないように要の世話になっている。
あれ程あった不安や焦りは無くなったので、要が学校やらバイトやらでいない間、ワタシはのんびりと要に勧められた本を読むのが日常になっていた。
記憶を失う前のワタシは、本が好きだっただろうか。いずれにせよ、要が勧める本は本当に面白い。
一人の時間も、要といる時間も、ワタシはどちらも好きだった。
「ただいまー」
そんな至極幸福な時間が、要が帰ってきたことによって打ち切りとなる。
ワタシは、重い手で本をしまい、重い腰を上げて重い足で玄関まで駆け寄った。
これが、ワタシの日課になっている。
あいつが帰ってきたら、ワタシは何が何でも玄関に駆け寄って。
「……お帰り」
——そうして欲しいったい、と、あいつはいった。
ずっと、帰ってくるときは一人だったからと。
だから、お帰りといってくれる人が居ると、本当に嬉しいと。
「……」
「何? ジロジロ見て」
ワタシが怪訝な顔をすると、「いやあ」と要は照れたように笑った。
「最初はしぶしぶじゃったのに、いつも早く飛んでくるように来るなあ、と思ったんじゃ」
「な!」
カアア! と、頬が熱くなる。
「り、リビングと玄関がつながってるみたいに近いからでしょーが!」
「あ、そういやそうったいね。うち狭かもんねー」
まったく……経済面の状況ギリギリなのに、何でワタシをこの家に住まわせたんだか。
何て偉そうなことは、いえなかった。
頬が、とっても熱すぎて。
まるで自分が、こいつを待ち焦がれていたみたいで。
この自分でも判らない感情は、コイツにはばれてないだろうか?
「……あれ」
暫く要は、冷蔵庫を探って、それから溜息をついた。
「……牛乳が無くなってたばい」
「ええ!?」
「そのほかにもトマト、キュウリ、レタス、パン、じゃがいも、玉ねぎ、その他もろもろ………」
って、しょっちゅう食べるものじゃん! 特に夏野菜は早めに学校に出立するために、サラダにする。パンも朝食に欠かせないものだ。
「どうするの!? もうすぐバイトじゃないの!?」
「……最悪、トマトとかは明日買いに行く。朝は米だけにするったい。漬物はあるし。牛乳とパンはコンビニで買ってくるったい。……今日はコンビニ弁当じゃけど、構わんね?」
「そ、そりゃ構わないけど……」
要の身体が心配だ。朝から晩まで働きながら勉強しているのに、そんな朝食じゃ身体が持たない!
……見ると要は、明らかに落ち込んでいた。
何て声をかけようか、とりあえず慰めの言葉をかけなければ——そう思った時、要はポツリと漏らした。
「…………はあ。コンビニの食品って、皆高こーて、かなわんばい……」
「え、そっち?」
それよりも朝食を満足に食べれないほうが痛いじゃん。
……けどまあ、要らしいな、と後から思った。