コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 臆病な人たちの幸福論 ( No.474 )
- 日時: 2013/09/08 21:04
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: MuUNITQw)
◆
パタン、と古びたドアが閉まった。
それはまるで、ワタシが本を読み終わったような空気で。
「……ワタシが迷惑かけてるのね」
ポツリ、と漏らしても、その声はあいつには届かない。
食品が足りないことも、場所が小さくなったことも、手間がかかってしまうことも。
全部、ワタシが居るから。だけどあいつは何もいわない。
どれだけお人よしなんだ、とため息しかつけなくて。
あたりを見渡すと、乾いた大量の洗濯物が、ある一か所にあった。
そういえば朝、あいつは畳もうとしたけど時間が足りなくなって、あそこにずっと放置していたような気がする。
ワタシはその大量の洗濯物に、手をかけた。
「……なんでワタシ、こういうことにも気づかなかったんだろう」
我ながら自分の図々しさを恥ずかしく思う。
本を読む暇があったなら、せめて、洗濯物ぐらい畳めばよかったのだ。居候のくせに、何してんだ。
何て思いながら、洗濯物を畳む。
畳む。
「……ん?」
——畳むのに、何で逆にシワが出来ちゃってるんだろう?
あれ? 結構乱暴に放置されていたのに、丁寧に畳もうとしたら、逆にグシャグシャになってない?
「……あれ?」
——洗濯物畳むのって、こんなに難しいの!?
あいつの尋常じゃない洗濯物の畳むスピードがワタシの頭の中にあったせいか、「畳むなんてとっても簡単」と思ってた。
しかし、この有様は何だろう。全然できてないじゃないか。
「……本当に、ワタシって役立たず!?」
今更な事実に気づいた。
ひょっとしてこれも、記憶喪失のせいだろうか。
まってワタシ、折り紙で鶴は折れたよね? そっちの方は全然問題なかったのに、なのに何で洗濯物は畳めないの?
「……いや、考えなくても判るわね」
記憶を失ったんじゃない。もともとから、畳んだ記憶がないのだ。つまり——ワタシ、記憶を失う前、きっと洗濯物すら畳んだことがない。
「うわああああああああああああああああああ……」
——つまり、拾ってくれたあいつから逃げ出そうとしたワタシは、洗濯物を畳むことすらできないくせに、一人で生活しようと思っていたのだ。なんという無謀。なんという自惚れ。
あまりの恥ずかしさに、ワタシは思いっきり頭を抱えた。
ど、どうしよう……そんなこと考える暇もない。
こうなったら、恥を忍んでアイツに教わるしかない。バイトでクタクタになったアイツ教えを乞うのは悪いけど、それでも、今後を考えると、教わるしかない。
そう思って、帰ってくるまであまりしわくちゃにさせないようにと、洗濯物を持って移動させようと腕に抱え込んだ——その時だった。
ふと、玄関の方を見ると、ドアが思いっきり開いていた。
夕陽をバックにして、玄関に立っていたのは要——ではなく、
全然見知らぬ、男だった。
頭が真っ白になる。
「(誰この人——何時の間に来たの——何でドアが開いてんの——ああ、アイツ閉めないで出ていきやがったな——まさかあの悶えてたところ見られた——どうしよう人に自分の姿見られた、あ、でもマスクしてるから大丈夫——?)」
電流が走ったように、頭の中では様々なことが浮かび上がる。
けれど、口から出たのは、意識的に考えていたことに反する、叫び声だった。
「…………きゃあああああああああ! 泥棒————!!」
……ワタシが叫んだことで、目の前の男は仰天し、ドアで隠れて見えなかった女の子も顔をだし、戸惑い。その場は阿鼻叫喚と化していた。
なのに、叫んでから三番目に来た男——要は、「ただいまー。あ、みやっち諷っちきとったとー?」と、のん気な声でのたまったのだった。