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Re: 臆病な人たちの幸福論【口裂け女、労働青年とただいま同居中!】 ( No.483 )
日時: 2013/09/27 23:49
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: MuUNITQw)


 よだかは、醜い鳥だった。
 顔は、ところどころ、味噌をつけたようにまだらで、くちばしは平たくて、耳まで裂けて。
 足はまるでよぼよぼで、全然歩けもしない。役立たずの鳥。

 周りの鳥は、よだかを嫌った。
 よだかは、周りに嫌われる自分が、大嫌いだった。

 なのに、名前は。獲物を逃さない鋭い目と、見るものを慄くような爪とくちばしを持ち、颯爽と空を翔る鷹の名前に、似ていた。
 足で地を歩けはしないけれど、昊では、鷹と同じように強く飛べたから。

 それはとりえであったはずなのに、それが原因で、よだかは鷹に疎まれていた。






「……あ、それ、『よだかのほし』じゃないですか」
「あー……。瀬戸から千代は本が好きだっていってたからな。こういうのもいいかなと」


 普通の制服に着替えた際に借りたこの三冊は、ふと、目に留まったものを手に取ったものだった。

 その中に、『よだかのほし』があったのは、偶然だったのだろうか。それとも、これから先のことを暗示する、一つの予兆だったのだろうか。




第四章 それは、全てを変えるような






 トコトコと並んで歩く高校生ズもとい、瀬戸と約束していた俺とフウ、そしてついてきた杉原と星永は、瀬戸の住んでいるアパートに向かっていた。
 ……何故か、二学期に転校する星永も瀬戸と知り合いだとは思わなかったが。
 どんな知り合いなのか、フウが尋ねると。


「師匠と弟子かっこ自称や」
「……」


 ツッコミどころがありすぎる。
 しかもこの様子(いってドヤ顔している)だと、説明してもらっても判らないだろうと思った。……後で瀬戸に聞いてみよう。
 短時間で、フウと星永は仲良くなった。どれだけ仲良くなれたかというと、彼氏の俺を前に出して後ろで仲良く並んで喋りまくっているぐらいだ。
 フウに関しては全然驚かないが、星永がフウのような人間に対して案外普通に接しているのが、結構驚きだった。一目見た時に、星永からは、俺と同じような匂いを感じたからだ。
 人を疑うことに慣れて、辟易して、疲れ切った、そんな匂いに。
 ……黄色い声でしゃべる星永の顔は、そんなモノは全くないが。

 ちなみに俺の隣には杉原がいる。杉原は後ろの二人の方には全く向かず、しっかりとした足取りで前に歩いていた。
 特に美人というわけではないが、毅然とした横顔と、まっすぐ前を見る瞳と、しっかりと結い上げられたポニーテールは、とても映えて、普通に綺麗だと思った。


「……何?」


 視線を感じたのか、訝しげに杉原がこちらを向く。
 俺は嫌な思いをさせてしまったかと、慌てたまま口走ってしまった。


「いや、綺麗だなと」


 いってから、あ、しまった、と思った。
 思わず、フウの方を見る。が、フウはキョトン、とした表情をしていただけで。
「な!」杉原はさっきまでの凛とした表情とは打って変わって、顔を真っ赤にして情けないぐらいにあたふためいた。

 ちょっとまずい、と思った時、意外にも、星永との話を中断したフウの救いの声が降りかかった。



「あ、そうですよね。雪ちゃん、時折すごくきれいで凛としてるって思いますもん」
「な、フウちゃんまで!」


 …………話の矛先は、フウに向けられる。
 良かった、と思うのと同時に、少し残念な気持ちが俺の中にとどまる。
 フウは、俺が他の女の子に「綺麗だな」といっても、妬いたり怒ったりはしないのかな、と思った。
 ……いやそれが、フウの良いところなんだけど。