コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 臆病な人たちの幸福論 ( No.484 )
- 日時: 2013/09/30 20:17
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: MuUNITQw)
そんな俺の葛藤をよそに、またにこやかに話し出すフウと星永。杉原も、顔の赤みは殆ど抜けていた。
俺も前に向き直して、気を取り直そうと歩き出した。
「ところで、フウ先輩」
「はい、なんでしょう」
「フウ先輩の、その、足は……」
思わず足を止めた。
後ろを振り返ると、フウの足も止まっていた。フウは驚いた様子で、杉原の方を向く。
「雪ちゃん、話したの……?」
「う、ううん……特にそっちの話は……」
杉原もかなり驚いている。
星永は慌てた素振りでまくしたてた。
「あ、いや……歩き方とか立ち上がり方が、少し普通の人とは違—なって思っただけなんやけど……なんかまずいことやった?」
「あ、ううん! そうじゃなくて、わたしの足のこと知っていても、大抵の人は意外と気づかなかったりするから、ちょっと驚いただけ」
そう。フウのいう通り、フウの足のことを知っていても、大抵は忘れてしまう。それぐらいフウの義足の出来は巧妙で、また、フウの歩く速度も、普通の人と同じぐらいだった。一緒に居る俺や杉原も、忘れてしまう。
なので、そうやって直接聞く人はそうそう居なくて。ましてや、何も聞いていないのに、フウの足について聞く人なんて、いなかった。
「……アンタ、凄い小説家になれるよ」
「……えーと、ありがとうございマス?」
杉原が真剣にいった。星永は無自覚のようだった。
……星永の観察眼は、普通じゃない。それはもはや、才能といえるほどのものだ。そんなのが、こんな身近にいるんだな、と、俺は感嘆した。
——才能といえば、この義足を作った人も、フウのリハビリに付き合ってくれたあの院長先生も、並々ならぬ才能だ。特に院長先生については、疑問と謎が多い。
後で調べたのだが、数年単位で眠っていた人でも、起きてすぐには歩けない。リハビリをしても、そんな、一か月ちょっとじゃ普通の生活には戻れないのだ。
しかも彼女曰く、大正十四年産まれで、十六歳になる春の前に眠ったということだから、昭和十五年には冬眠したという計算になる。ということは、半世紀なんてものじゃない。八十年は眠っていたという計算になる。凄い計算だ。……目覚める前に、良く腐らなかったり老けなかったりしたな。改めて考えると恐ろしい。
杏平さんからは、フウは冬眠していたからこそ、肉体の時間を留めさせて、老けることも腐ることもなかったという説明を貰ったが、何にせよ、謎である。そんな奇跡の大技、フウ本人がやろうと思って出来るワケないし(そもそも本人は死んでいると思ってた)、そんな昔の科学で出来るようなことでもない。
「(……いつか、判るかな)」
何時かその謎が、判るだろうか。
そして思うのだ。その時は、この様に穏やかに過ごせているのかな、と。
楽しそうに会話するフウをたまに振り返ってみながら、俺はそんなことを、考えるのだった。