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Re: 臆病な人たちの幸福論【第五部後半予告編】 ( No.510 )
日時: 2013/11/03 14:37
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: MuUNITQw)
参照: ルゥさん翻訳ありがとうございました!


 あたしは、昔っからいじめられっ子。
 最早運命やないかと思うぐらい、いじめられっ子。

 あたしが歩きようなら罵声が当たる。それぐらい酷かったんや。
 なんでやろね。特に悪いことしてへんのに。
 けど、これぐらい否定され続けとうと、無自覚に思ってしまう。
「あたしって、何か悪いことしとんのかなあ」って。


 こんだけ長く続くと、つい、自分の存在そのものを否定しそう。
 自分が悪い、と思ったことはしてへん。あたしは、何一つ間違ってへん。そう思っとっても、弱気になってしまうときがある。

 そうなった時、あたしはかなりピリピリしとるらしい。
 最近出来た友人の出会いも、あたしが絡まれとるところを助けてもろうたのに、腹立ったあたしはとんでもない返しをしてしもおた。

 あたしに味方がおらん、とは思わへん。

 けど、一〇〇パーセントのあたしの味方は、あたし以外におらへん。
 せやから、変えるしかないんや。たった一人で戦うとしても、逃げとうないから。あたしは何一つ間違ってへんから。絶対に、あいつらがやっとうことを、許しとうないから。
 せやけど。



「戦う理由って、何?」



 あの日、友人にいわれよう一言で、あたしの全てが変わったんや。






【低気圧&高気圧注意報】








 とあるハンバーガーショップは、今日も騒がしよう。せやけど、その言葉は酷く通っとって。


「……どういう意味や、それ?」
「どーもこーも」


 言いよう本人——最近出来た一つ年上の友達、杉原雪は、ストローから口を離していいよった。


「優ちゃんの学校って、あんまりにもまともじゃないと思うんだ。まともじゃない奴にまともな対応しなくて、いいと思う。うちの学校に転校してみたら? って前いったけど、優ちゃん断ったよね。
 ——どうして、そんなところで、闘わないといけないの?」


 どうして? ユキのまっすぐな視線に、あたしはすぐには答えられへんかった。



「……あたし、いやだよ。優ちゃんが何をしたっていうの? 悪いこと、なんにもしてないじゃない。なのに、なんで優ちゃんが傷つかなくちゃならないの? 何でそこに踏みとどまるのよ、優ちゃん…………」



 そしてゆっくりと、ユキはこう言いようた。



「優ちゃんがどれだけ傷ついても、あいつらは何も感じないんだよ? 改心するわけないよ」


                     ◆


「おねーちゃん、また空見とう」
「へ?」


 双子の妹の声で、あたしは我に返った。
 見よると、ここはあたしと、双子の妹の部屋だ。いつの間にか、家に帰っとったらしい。


「帰りようときも、何かすごくボーっとしとうたし……何かあったん?」
「な、なんもあらへんよ!! 大丈夫やけん」
「……また、街中で嫌な連中と遭遇しようの?」
「してへんよ!! 大丈夫」


 大丈夫、を繰り返すと、妹は真顔になりよう。
 ……妹が真顔になりよるときは、決まって何時も真剣に怒っとう時だ。



「おねーちゃんは、何時もそればっかり。自分を全然大切にしてへん」


 そんな奴、早う学校からいのーなれって、あの学校におる人、皆思っとうよ。
 言い捨てるようにゆうて、静かにドアを閉めた。
 それが合図のように、外は雨が降り出しとうた。




「……少し、怒らせようたかな」



 妹の正義感の強さと、心配性は、誰もから好かれとる。勿論、あたしも。
 双子なのにこうも違うと、ちょっとばかり嫉妬があんのやけれど。優しい妹やから、憎めへん。
 せやから、妹があたしの為に怒ってくれよることは、何時もなら嬉しい。
 せやけど、今回ばかりは、心が重かった。


 ……雨を眺めとうと、何だか身体も重くなっていくように感じよる。


 低気圧の時、人は身体が重くなるといよるけれど。
 本当は高気圧の方が気圧が高いわけやから、晴れの日の方が身体が重くなるはずなんやと、精神科の先生はいっとうた。
 やけど、晴れの日は温度も高いし動き回れるし、やっぱりそこは、人間の気分なんやないかな、とあたしは思う。


 ユキの言葉が、脳裏をチラつかせることも、心と体を重くさせよる原因やった。
 ……いや、違うか。
 ユキの言葉にショックを受けた自分自身に、驚きと戸惑いを隠せへんかったんや。