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Re: 臆病な人たちの幸福論【『優の独白』更新】 ( No.514 )
日時: 2013/11/30 22:48
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: MuUNITQw)



 意味のあらへんものやとは、いわへん。
 必要あらへんとは、いえへん。


 いじめは確かに、醜くて、悲しくて、惨めで、本当にドロドロの沼のような、汚らしいものやけど。

 それを全部取っ払った方がええとは、いえへん。

 その中に、輝きを持っとう大切で尊いもんもあるから。それを見つける為に、必要な泥やから。
『いつか、それをいけないことやと判る為に』必要なものやと思うから。
 せやけど、学校を卒業しても、大人になっても、誰かをいじめよう奴はおる。


 泥から大切で尊いもんを見つけるんは、個人の意思なんやろう。
 いじめる奴はそんまま誰かを貶めつつも、自分の品位も貶めとる。いじめられとう側はどうやろう。いじめとう奴みたいに、世の中すべてを憎んで自分を貶めとるかもしれへん。または、わたしが悪いんやと、ずっと自分の存在意義を否定しようかもしれへん。

 それは、個人の強さと、運命や。

 せやけど。
 だからこそ、教育というんはあるのではあらへんのやろうか。
 教育は、教えようだけやない。誰かを育てよるという意味がある。

 育つために、必要な困難がある。
 感情だけ突っ走れば、それはとても嫌なもんで、甘んじて譲受したくはあらへん。誰やってその困難を避けたがるんやろう。せやけど、それは大波のようなもんで、避けようても後退しようても、逃げ場があらへん。
 その波を乗りこなして、波が収まるまで耐えきらんとならへん時がある。

 誰だっていややろう。あたしだって嫌や。若いうちに苦労しとけと老人にいわれようても、やっぱり、面倒なことはしたくはあらへん。
 せやれど、理性で、それを正しいと思わなければならへん。


 現実を見ろ。少しの意見の違いで、こんなにも人を嫌な風にいえとる。少し違う外見で、こんなにも人を貶めとる。少しの不満が、小さく表れて、その小さな不満が、誰かに伝わるごとに雪だるま式で膨らんでいきよる。
 ほんの小さなことで、人はこんなにも、こんなにも残酷になれよる。
 それは醜くも、『社会』を成り立つ為の、副産物なんや。


 小さな不満を解消する前に、大きな仕事が待っとる。
 小さな疲労をいやす前に、闘争心に巻き込まれよる。
 小さな生活を守るために、大きな存在に支配されんとならへん。


 それは仕方がないことやと、生きるためにはそうせえへんと明日は来へん、誰もがいっとる。



 例えば、校則を上げてみる。
 生徒は学校では、校則やからと、好きな服も好きな格好も出来へん。部活でクタクタに疲れさせられようた後、大量の勉強が待っとる。にも関わらず、塾に行かせられよる子は多い。
 教師は生徒のために何かをしたいと思ってなったんに、あまりにも多すぎよる仕事でそれどころではあらへん。生徒の気持ちはわかるが、あまり大きなことをしたり、クラスの成績を下げてしまうと目をつけられ、転勤を余儀なくされる場合が多い。
 校長や教頭は、体裁を気にして、大きな問題を起こさへんよう起こさへんようにと、下の人間の自由を少しずつ減らしていきよる。


 誰も、考えたことがあらへんのやろうか。
 ずっとずっと疲労しっぱなしでは、たどり着く場所は、破滅しかあらへんということを。
 少し考えれば、それを少し行動すれば、もう少し、楽しくて幸せな日々が送れよるかもしれへんのに。小さなことを、一つずつ、考え直していけば。


 やれど、それを考えた人は、少ない。
 いや、多分、みんな気付いてるんやと思う。思うけど……それを行動しよれば、少なくとも『今の状態』とは違うことになってしまう。
 それは、幸せな日々なんやろうか?
 それとも、今の状態より、もっともっとひどい日々なんやろうか?


 ……後者なのかもしれへん。
 誰も行動せえへんから、そうなった後が判らへん。保証が判らへん。
 あたしはまだ子供やから楽観的に考えとうけど、例えば教師とかは、生徒の責任を持つわけやから、簡単に動くことが出来へん。
 会社も、また同じく。
 やから「校則を守らへんで社会に行けよると思うなよ」とか、脅し文句を使うんやろう。


 ……これが、いじめに当てはまるんやったら。




「こんなことにも耐えきれへんで、社会に出られるとか思いよるなよ」


 または、


「こんなことしかできへん人間なんて、社会に出せるわけがあらへん」


 ……やろうか。

 いいたいことは判る。やって全部、正論やから。

 せやけどそれは、あまりにも残酷で、無責任で、考えへんでも誰にだっていえよう。
「いじめはするな」「いじめられよる方も悪い」「いじめを見とう奴も悪い」
 誰にだって言える。反論なんてできへんから。正論やから。考えへんでも、当たり前やから。
 せやけどそこで留まってしまえば、進めへん。正論だけじゃ、人間関係のやりくりは出来へん。



 ……せや、あたし。考えたいんや。
 自分がいじめられとうから、このままで負け犬になりたくあらへんのや。
 あたしが闘っとうのは、あんなちんけな存在やあらへん。あれと闘いようてちゃ、キリがあらへん。人の心と闘いようわけやあらへん。人の心をどうにかしようなんて、出来ようわけがあらへん。

 あたしが闘いたいんは、仕組みや。こんなみすぼらしい副産物を作りよった仕組みを壊したい。壊した後、少しでも良い日常が欲しい。
あたしは、いじめらようて判ったから。こんなの、間違っとるって判ったから。間違っとうなら、正したいと思いようたから。

 ……やけど、あたしのちっぽけな知識と考える力だけや、そんなの無理で。
 そして、そうやって闘いようことに、疲れとうて。