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Re: 臆病な人たちの幸福論【『低気圧&高気圧注意報』更新】 ( No.524 )
日時: 2014/01/25 10:49
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: T5S7Ieb7)


                ◆

 
 とても怖い夢を見た。
 何時と同じような夢だと思う。ただ、さっきの夢は、今までより遥かに鮮明に覚えていて。
 最後に、ワタシ自身が血まみれになる夢だった。
 ……ぞっとした。もう思い出さないほうがいい。
さっきの夢は忘れよう。そう心掛けるも、中々忘れてくれない。
 そうしているうちに、喉がとても乾いてきた。ワタシは水道水をコップに注ぎ、ゴクゴクと飲む。少し、水が冷たかった。

 
 思えば、要と出会ったのは夏だった。もう随分、秋が深くなっている。
 そろそろ冷え込むだろう。ここの地域は盆地だから、冬はとっても寒いと思う。
 

「そう言えば、ユキは手芸得意だっけ」

 
 ポツリと思い出したのは、ポニーテールが良く似合う友人の顔。
 決めた。彼女にマフラーの作り方を習おう。セーターは手先が不器用なワタシには到底無理かもしれないが、マフラーぐらいは編めると思う。少々不細工でも、アイツなら喜んで受け取ってくれると思う。というか無理でも押し付ける。明日ユキに習いに行こう。
 色はどうしようか。要は意外と黒が好きだ。でも、白でも赤でも似合うと思う。要らしく、優しい色にしよう。黄色なんてどうだろうか。
 まだ決めたばかりなのに、考えれば考えるほど浮き足立ってきた。未来設計は随分と楽しいことに、最近ワタシは気づいた。
 

 今日できなかったことが、明日出来るようになる。
 

 明日が来るのだ。明日も、この家に居られるのだと。そう信じ込んでいるから楽しいのだと。
 

 タンタンタン……と、足音が聴こえた時、気づかされた。
 それは、まるで氷の棘が体中に刺さったように。
 
 

 ……要が帰って来た?
 いや、もう一人の足音が聴こえる。
 誰だろう? 友人の音じゃないような気がする。
 
 でも、何故だろう。
 何故かこの音を、ワタシは知っている。
 
 

「ただいま、千代っちー!」

 
 ガタン、と扉が開かれた。
 そこに居たのは、要と、——————。
 


「コンビニで千歳さんに会ーたけん、連れてきてしもうた! 俺ん先輩ちゃ!」
「わー、ホンマに美人やな、要!」
 
 
 身体の中に巡っていた血が、急に落ちた。

 

「初めまして」
 



 ——違う。
 



「——大八木千歳ていいます」
 



 ——初めましてじゃ、ない。
 
 



「……千代っち?」
 










 ——ワタシは、知っている。この人を。
 

 この人は、ワタシの、————————。
 
 体制を思いっきり崩して、転びそうになって。
 それでもワタシは、無我夢中に、弓を引くように、走った。
 
「千代っち!? どこ行くと!!」後ろで声が聴こえる。
 ごめん、要。本当にごめん。
 ワタシ、今、全部思い出した。
 
 
 そうだ。
 あの夢の続きを、ワタシは知っている。
 要に会って、まだ、落ち着きようのないまま、眠りについた、あの夢の続きを。
 
 
 何でも願いをかなえてくれた。
 お金も、地位も、人も。
 何の苦労もせずに、ワタシは欲しいものを手にしていた。
 
 だけど、本当に欲しいものは、何一つなかった。
 本来の親子だったら、望まなくても貰えるモノを。
 可愛がるだけで、ワタシの義両親は、ワタシの目を見て話すことも、ワタシを叱ることも、なかったのだ。
 ワタシ自身を、見てくれなかったの。




 
      だから、千歳が生まれた時、ワタシの存在価値はなくなったの

 
(口裂け女は、逃走する)
(それは、あの日諷子が健治に幽霊だとバレた時のようで)