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- Re: 臆病な人たちの幸福論【口裂け女のムカシバナシ】 ( No.527 )
- 日時: 2014/02/07 22:15
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: T5S7Ieb7)
「千代ー、どしたのそんな難しい顔して」
友人の言葉に、ワタシははっと我にかえった。
友人のハツは、何時もにもまして笑顔を浮かべている。昨日彼氏の家に泊まると言っていたが、いいことでもあったのだろうか。……勘ぐるのはやめよう。下品なことまで思いついたら、ワタシの㏋はゼロだ。
「……怖いよ、何時もにもまして」
「ごめん……ただの寝不足だから」
目をこすりながら、掠れた声で返すと、満面の笑顔から一転、ハツの顔に影が出来た。
「……また何か悪口書かれてた?」
顔を険しくして、低い声で聞いてくれる。さっきまで彼氏のことで頭いっぱいだった癖に、ワタシの為に、表情を変えてくれた。そのことが、ワタシにとって嬉しくて、にやけてしまった。
「ううん。それはいいの」
そういうと、ハツは訝しんだ。どうやら心配性の彼女は、ワタシの言葉が嘘っぱちに聴こえるみたい。
でも本当に、今日は違うのだ。
「実はね。……弟が、出来ちゃって」
口裂け女 ムカシバナシ2
「お、弟ぉ!?」
「うん、弟」
慌てるハツを見て、さっき自分が言ったセリフが、自分に子供が出来ましたとでもいったみたいだな、とふっと思った。
「ななななんでそんなフツーに……とととと唐突過ぎよ!? え、というか何歳差!? え?」
「十六歳差かな。学年は十七つ違いだけど」
そういうと、ハツの顔がゲシュタルト崩壊した。ワタシに弟が出来たことがそんなにも驚きだったか。
ハツが「何でお母さんが妊娠中の時にいってくれなかったの!?」と迫ってくるが、んな無茶な。ワタシだって、弟が出来たっていう知らせが届いたのは、高校二年の夏休み前だったし。しかもその時には病院から「生まれます」の連絡だったし。
「(ワタシも、聞いた時には驚いたけどさー……)」
終わってしまえば、あ、そう、って感じだった。
夫婦そろって娘には何もいわないのだ。というか、いう時は何時も大体遅い。例えば授業参観日が終わってから、その類のプリントを親に渡すことぐらいに遅い。
だから今回のことも、事の重大さがわからないまま過ごしてしまったのだ。
「名前なんていうの、弟君」
気にしていないが当日いわれてそれなりにショックだったことを思い出して暗くなるワタシに、子供好きなハツは、対照的に嬉々として、ウキウキと聞いてきた。
「千歳。なんか女の子みたいだからやめなさいって止めたんだけどさ、両親いうこときかなくて」
「えー、いいじゃん! 千代に千歳かあ。やっぱ姉弟って感じだね」
ワタシの家の事情を知らないハツの言葉に、ワタシは苦笑いをするしかない。
……そっか。ハツがさっき驚いていたのって、突然弟が出来たことだけじゃなくて、ワタシと弟の年齢の差が大きすぎることに違和感を感じたからかもしれない。お母さんとお父さん、頑張り過ぎって、傍から聞いたらそう思うだろう。
……ワタシが養子だっていうことを知っているのは、ほんの僅かで、仲の良いハツも知らないことだ。
まあ、それはとりあえずどうでもいい。そんなことよりも、ワタシはハツに愚痴を聞いて貰いたいのだ。