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- Re: 臆病な人たちの幸福論【傍から見れば男女のもつれ】 ( No.530 )
- 日時: 2014/03/05 18:46
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: T5S7Ieb7)
俺が初めて瀬戸に会った時、第一印象として大きい奴だな、と思った。
最初のそれはがっしりした体格のことを指していたんだが、上田兄妹と武田との件で、一生懸命動く姿を見て、精神も強いんだな、と感じた。
だんだんと瀬戸のヘビーな過去を聞いてくるうちに、それは徐々に確信を帯びていったんだが。
……まあなんにせよ、三也沢健治にとって、瀬戸要というのは、友人であり、恥ずかしいのであまりいわないが、男として、人間として憧れの存在なんだ。
——そいつが、朝っぱらから死んだ目をしていたら、誰だって驚くだろ?
第五章 瀬戸少年の意外な面について
「おかしいぞ今日の瀬戸はッ!」
「落ち着け、三也沢」
勢いのまま叫んだら上田に突っ込まれた。何時もは逆だが、これが慌てずにいられるでか。
「だっておかしいだろ!? 何だ今日の瀬戸の目! 一切光射さずってか死んだサバの目というか瀬戸の趣味渋いから何か四十代手前のオッサンから漂う哀愁があるっていうか!!」
「何後半の例え」
「というか今日のお前は珍しくブレているのだよ」
まさかのボケ担当橘と森永にさえ突っ込まれる。というかお前らは何故冷静なんだよ!!
だってあれぞ!? ヘビーな過去をあっさりと明るくゆって聞く人ぞ瀬戸ショックを受けさせる奴ぞ!? そんな奴が落ち込んでいる(という域を超えている)んだぞ!? 何か今自分が何いってんだか判らなくなってるけど、それぐらい瀬戸があんな落ち込み方をするとは想像もつかなかった。
「結構みなさん平然としていますけれど……ひょっとして、瀬戸君って結構落ち込んだりするんですか?」
混乱の渦の中心に立っている気分で心中のまま突っ込むことなんてできない俺の代わりに、フウが尋ねると、二人はちょっと驚いた顔をした。
「……良く気が付いたね、フウちゃん。その通りだよ」
「不登校を脱出した後も、一人で空ばかり見ていた時期があったのだよ。理由を聞いても何もいわないし、何もしなくなる時もある。多分奴は落ち込むだけ落ち込むタイプだな」
中学時代から付き合いのある、橘と森永から伝わる情報からは、中学生瀬戸像を想像することは出来なかった。代わりに、少しだけ気分が落ち着いたような気がする。
「意外と瀬戸って凄い奴だって勘違いされるんだけど、そうでもないんだよ。まあ、最近じゃ落ち込む姿なんて他人に見せなくなったから、ちょっと俺も驚いたけど……」
「ああ、やっぱり……。あの落ち込みって、今まで上手く行っていたのに急に精神が退化したように落ち込んだ自分に落ち込んでいますよね……。これぐらいじゃもうへこたれないぞー! って思っていたのに、落ち込んじゃってあれ、全然成長していないぞ? と思う自分に自己嫌悪、みたいな」
見事な観察眼を披露するフウに、上田が「良く判っているね、宮川さん……」と感心したようにいった。するとフウは、「わたしの二番目の兄もそんな性格でしたから」という。それにちょっと俺は驚いた。
フウに兄が二人居たことは聞いたことはあったが、どんな人だったかは知らなかった。フウにとって、自分の血の繋がりのある家族の話は、大切な宝物のようなものであると同時に、触れたくない古傷のようなものでもあった。そんなフウが、あっさりと自分の兄のことについて話したということは、フウはフウで、昔よりも成長したのだろう。
それが何時も出来る瀬戸は、今日に限って凄く落ち込んでいるのである。