コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 臆病な人たちの幸福論【傍から見れば男女のもつれ】 ( No.531 )
- 日時: 2014/02/25 23:29
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: T5S7Ieb7)
「……奴が人並みに落ち込むことだってあるということは判った」
けどなんで、今日はあんまりにも落ち込んでいるんだ?
そういうと、何故か空気がシンとした。
「……あれ?」
「……鈍い鈍い鈍いとは思っとうたけど、まさかそんなに鈍いとは思ってへんでしたよ、先輩」
星永から呆れた視線を受ける。フウも、流石にそれは……といった。
どうやら既に、この場に集まっている人間は察したらしい。というか、判っていないのは確実に俺だけだった。
「良く考えてください、ケンちゃん。瀬戸君が、今更バイトのことで悩んだり落ち込んだりすると思います?」
「……思わないな」
いや、仕事上のトラブルってベテランだろうが新人だろうか何時だって付きまとうものだとは思うけれど。基本的に働くこと、というか体を動かすことが好きな瀬戸が、バイトの悩みであそこまで落ち込むわけがない。
じゃあ、学校でのトラブルか、と思ったが、それも違うなと考え直す。先週はおかしい様子は見せなかったし、何せ昨日は休日だ。だとすると……。
「あ、千代か」
ポン、と口が裂けた性格がキツイ少女の顔を思い出した。
なるほど、千代か。なら判る。
他人の恋路に首を突っ込むと馬に蹴られるという言葉もあるぐらいだから、他人の俺らが深入りするのもヤボではないだろうか。ここは関わらないほうが……と思いつつ、あれだけ落ち込む瀬戸を見ると、気になって仕方がない。
「……なにがあったんだろうな?」
「フラれたとか……はナイデスヨネー」
橘が軽くいって、すぐに訂正する。女子陣が睨んだからだ。
まあそれは、絶対にないだろうな。千代が瀬戸に向ける好意は、あきらかさまだ。本人は隠しているつもりらしいが、瀬戸と話す時のツンとデレのスイッチが、俺たちと話す時とは全く違う。幾らなんでもニブイといわれる俺だって判った。
じゃあ、千代がツンツンしすぎて傷ついたとか? それもないだろう。何故ならあの瀬戸だ。千代とファーストコンタクトを取った時、千代を叱った時の瀬戸は中々威圧的だった。怒る時はちゃんと怒るし、その前に彼は許容範囲が十八歳とは思えないぐらい広く、思考も達観している。というか渋い。
じゃあなんだ? と考えるが、中々思いつかない。
「……聞いてみるか?」
瀬戸に直接事情を聞く。それしか方法はない。
「あの今の瀬戸に聞くの?」
「でもそれしかないようですよ」
散々話し合った結果、ジャンケンで負けた奴が聞きに行くことになった。
あの瀬戸に話しかける勇気など、誰一人持ってはいなかったからな。
そして、長い長い引き分けの末、役目を担ったのは橘だった。
「何で俺ッ!?」
「お前がジャンケンに負けたからだろ」
「ファイトー!」
頑張れ勇者橘。未来は君にかかってる! と、どこぞの冒険ゲームの煽り文句みたいなナレーションを心中に留まらせ、俺たちは遠くから橘と瀬戸を見守ることにした。