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Re: 臆病な人たちの幸福論【傍から見れば男女のもつれ】 ( No.532 )
日時: 2014/02/27 19:32
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: T5S7Ieb7)


                  ◆


「いや無理だってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 とうとう橘が音を上げた。いや、最初から音は上げていた。どちらかというと、橘の心が折れた。


「使えねえな……」
「全く」
「いやお前らやってみろよ! 今日の瀬戸は落ち込んでるだけじゃなくてめっさ不機嫌なんだよ!! あんな怖い瀬戸おらあには無理だって!!」
「……まあ確かに」


 今さっきまでは普通に、……いや、あの時点で普通ではないが、それでも落ち込んでいただけだったと思う。それが、時間をかけて、周りの空気がどす黒くなったというか。要は、瀬戸が急に不機嫌になったようなのである。


「橘がモタモタしてたからじゃないのか?」
「橘がうざかったから」
「橘の存在が鬱陶しかったから」
「さり気に俺の存在そのものを否定するのやめてくれますッ!?」


 とまあ、橘をいじるのはこの辺にして。
 ある方法を思いついた俺は、やっと何時もの自分に戻ったような気がした。
 ……まあ、今だけだろうけど。


「……橘に無理を言わせるつもりはねえよ。俺たちにできないことを、無理に押し付けることはしねえ」
「……三也沢」
「というわけで、お前邪魔。帰っていいぞ」


 シッシ、と追い払う仕草をする。


「さっきの俺の感動返せぇぇぇぇぇ!! ちょっと感動したのにぃぃい!! というかお前がいうか!? 血相変えて俺ら集めてその上ジャンケンで負けたのが瀬戸に事情聴取するとか提案したお前がいうか!?」
「あー、はいはい俺が悪うございましたー。じゃ、上田、先に教室戻ってくれ。んで、森永は橘を戻しといてくれ」
「え、俺らも帰っていいの?」
「待て。何故俺がゴ……橘を回収せねばならぬのだよ」
「ゴミって言いかけた!? 今ゴミって言いかけたよね!?」
「いーいーかーら、とっとと戻れ。あ、星永も杉原もいいぞ、戻って」


 問答無用で追い払う。しかし、杉原は、「あたし、何であんなに瀬戸君が落ち込んでるんだか気になる!」といいだした。
 マズイ。ここでフウ以外の人間が残ったらかなりマズイ。何が何でも杉原にはクラスに戻って貰わねば。
 だが、真向な善意を否定するのは些か気が引ける。どうしたものかと思った時。


「大丈夫ですよ。たった今、瀬戸君に話しかけるいい方法思いついたし。ただ、もうそろそろ授業が始まるでしょう?」
「フウちゃんだって授業はあるよ?」
「うん。だけど、あのままだと瀬戸君、今日一日は授業を受けられそうではないですし。ここは一時間さぼって、気持ちを入れ替えさせた方がいいと思うの。そーゆーのは、わたし兄で慣れてるから」
「……」
「大丈夫。後で教えるよ」


 空気を呼んでくれたフウが杉原にやんわりといった。フウに弱い杉原は、「……判った」と渋々引き下がる。
 フウの表情を見る限り、フウには俺が考えていることが判っていたようだ。
 皆が引き下がった後、フウは少し苦いものを笑顔と混じらせていった。



「トイレの花子さんと瀬戸君を会わせて、千代ちゃんのことを全部話させるつもりですね?」
「ああ」


 旧校舎の女子トイレに住んでいる、トイレの花子さんはフウがこの学校の怪談として生活していた時からの友人だ。様々な学校に居ついているトイレの花子さんと情報を交換できる為、知りたいことは何でも知れる。そろそろ、千代についてのことも彼女は掴んでいるハズだ。














「……女装、するんですね?」
「……ああ」


 花子さんは男嫌いだ。
 その為前回、俺は、女装した。まあ、正体は結構すぐバレたらしいが、流石に男の恰好のまま女子トイレに入るとなれば、わいせつ罪で捕まると思う。幾ら花子さんの噂と、古すぎて不気味な為あまり使われなくなってしまったとはいえ、それでも未だに使用者はちゃんと居るのである。というわけで、今回も女装必須だ。
 ちなみに橘を下がらせたのは、女装した姿でバッタリ橘と会ってしまい、女装した俺とは知らず、俺に告白してきたからだ。ニブイニブイと言われている俺でも判る。
……彼の目は、本気と書いてマジだった。
 後のメンバーはまあ。……女装趣味とは思われたくないからだ。いや、女装趣味の人間悪くいってるわけじゃないぞ? 決して、……じぶんはそうじゃないというだけで。

 今日の俺は本気でブレていたが、橘たちのノリで、何とか通常に戻った。けれど……女子トイレに入る為に女装するのは、正気なのか。……答えは明白である。

 ああ、さらば通常の俺よ。