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Re: 臆病な人たちの幸福論【瀬戸君、ご乱心】 ( No.548 )
日時: 2014/04/02 22:05
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: 3mln2Ui1)




 それからして、ワタシはよく山田さんと会うようになった。


 沢山の話をした。自分のこと、両親のこと、学校のこと、友達のこと。

 山田さんはワタシの話を真摯に聞いてくれる。それが新鮮だった。ハツは確かにワタシの話を聞いてくれるけれど、こんな風に、悩み事をぶちまけるようなことはしなかった。


 そうしたらきっと、ハツは困った顔をするだけだろう。


 けれど、山田さんなら、それを受け止めてくれる。随分と話していくうちに、最初は辛いことを思いだしては泣き出したというのに、今では心穏やかに話すことが出来るようになっていた。

 勿論、愚痴や悩みは尽きないけれど、最近では友達みたいに、このお店が美味しいなど、この本は面白いなど、そんな話が大半を占めている。
 気付いたら、随分と彼に心を許していた。


「え、山田さんって学校の先生だったんですか!?」
「ああいや、教育実習生だっただけで、結局教師にはならなかったんだけどね」


 これには少し驚いた。
 けれど、山田さんの言葉は、意外のようで、よくよく考えてみればそうでもないかも、と思う。話し方とか、視線とかを考えると、優しい先生と言うのが当てはまりそうな感じだ。


「山田さんみたいな優しい人が教師になったら、学校楽しそうなのに」
「いやー……そういわれると嬉しいけれど、優しいだけじゃ、先生にはなれないからね。結局思い直したよ」


 山田さんは笑っていった。そういうものなのだろうか。ワタシには些か腑に落ちない。

 優しい人間は、好かれるんじゃないだろうか。生徒に好かれる先生は、最高じゃないだろうか。
 そんな単純な職業ではないと思うけれど、でも、優しさ抜きで、何かを成し遂げることが出来るのだろうか。



「それで、今は何をなされているんですか?」
「うーん、今? そうだねえ……一言でいうのは難しいんだけど……」



 そうだ、と山田さんは言った。



「一度、僕の仕事場に来てみないかい?」








 空を見上げると、もう既に、日は落ちて茜色に染まっていた。
 炎が激しく燃えるように染まる空。情熱的で、儚げなその光景は、ただ、ワタシを無性に破壊行為に駆り立てるものでしかなかった。


 カアカア、とカラスが鳴く。
 ワタシの目の前で、ゴミを漁り、生ゴミをつつく。
 ワタシは、手元に持っていた鉈で、カラスの首を切り落とした。

 目の前には、ゴミ、ゴミ、ゴミ。
 その中には、人のシタイなんかも、混ざっていたりして。
 クビを切り落としたカラスの羽が、頼りなげに、異臭のするゴミとゴミの隙間に落ちていった。

 ここには、人は居ない。人が寄り付くあてもない。不気味で、異様で、無様で、汚らしい。
 だから、安心して、ワタシは素顔を晒すことが出来る。

 ただ、人よりちょっと口が大きいので、マスクを外したら唾液が漏れてしまうけれど。
 その異様さを責めるヒトは、居ない。

 人じゃないワタシの住処。バケモノのワタシの居場所。
 鉈でも鎌でも、持っているだけで命を切り取ることが出来る、バケモノ。




(バケモノなので、耳がいいです)


 コトコト、ガタガタ、ガサガサ。ガサ。



(バケモノなので、鼻もいいです)



 ——誰カガキマス。
 コレは、人間ノ匂いデショウか。こんなところに来ては、いけないというのに。
























「やあ、こんにちは。——人殺し」








 そして——その人間は、現れた。
 醜イ、ワタシの元ニ。



         よだかとバケモノと人間の話


(人殺し、ト呼バれルほど、ワタシは人を殺した)
(そして、何度も何度も、刻ミ付けた)

(身体が、赤く染まる程)