コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 臆病な人たちの幸福論【瀬戸君、ご乱心】 ( No.552 )
日時: 2014/04/24 20:36
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: Q.36Ndzw)



 とりあえず、ハツの笑点好きな点は置いといて。


 一か月前、ワタシは、山田さんに告白した。あ、勿論、恋愛的な意味で。くれぐれも火ミスの犯人のする自白的な意味ではない。

 当たって砕けろな心構えで告白したのに、意外とあっさり了承を貰えたから、その場で腰を抜かすという失態をしてしまったけれど。失恋して、山田さんに会いづらくなる方がダメージとして大きかったと思うので、まあこれは、いい結末であったと思う。



「ひゃー……千代もやるわねえ。そんな人捕まえるなんて」
「フフン。ハツも彼氏捕まえなよ?」
「ちょ、今のムカツク。自分が彼氏捕まえたからって、いい気になるな」



 女子高生とは思えない顔をして、ハツは下を向く。
 ……ちなみにハツは、こう見えて結構男性経験豊富だ。今はもうフって独り身だが(高校生がいうことじゃないよね)、それでも男子にはモテるモテる。彼女曰く、「これぐらいの顔だったら落せるかなと男子は思っているから、あとは愛想で振りむかせる」らしい。あくどい、じゃない、計算高い、じゃない、強かな性格がモテる秘訣だとかそうじゃないとか。


「あーあ、じゃあこれから、千代と遊べる時間、少なくなるわねー」
「そんなことないよ。いつも通りでいいじゃない」

「あのね。そんな余裕スカした態度じゃ、あっという間にフラれるわよ? なんたって、相手は八歳年上なんだから。アンタはそのハンデについて、もう少し危機感を持ちなさい」

「そうかなー……ハツからいわれたら、そうかもー、って思うけどさ」


 ……確かにワタシは、男性というものについて、あまり知らない。
 周りに寄ってたかってくる男どもが気色悪くて、毛嫌いしないとやっていけなかった。そんな男嫌いのワタシが、男の人と付き合うことになるなんて、今まであまり想像しなかった。

 だから。……実の所、これから先どうなるかが、怖い。

 今まで気づかなかったことや、気付かなくてはならないことが増えてくると思う。その時その時の瞬間で、何が生まれるか、何が壊れるかが判らない。


 ワタシは、恋をしても、大切な親友を大切にしたい。だけど、漫画や小説なんかでは、恋と友情を両立させることは、難しいみたいで。
 だけど。










「——ハツはさ、彼氏作っても、ワタシのことを気にかけてくれるでしょ?」









 ハツが、弾けるように顔を上げた。

 ……ワタシは、知っている。ハツが彼氏を作った時は何時も、ワタシとの時間が増えるのだ。

 友人一人作れないワタシを、何時も守ってくれるハツ。それは、恩着せがましくなく、それでいて温かいやさしさ。

 ハツは、彼氏ともう少し深い関係になる前に、ワタシとの時間を増やしてくれる。急にワタシを、寂しくさせないための気遣い。そのお蔭で、ワタシはハツと喋る時間が少なくなったという事実に気づいても、感傷的になったりすることはなくて。

 そんなハツの気遣いに気づいたのは、恥ずかしながらも今日、それも今まで会話してきた最中のこと。つまりたった今のことで、多分ワタシが未だに気づいていない気遣いも、そこらじゅうに転がっているだろう。


 だから、ワタシも、ハツと同じようにとはいわずとも、貰った分だけのやさしさを、ちゃんと返したいと思うのだ。





「ハツ。……ワタシがフられちゃったら、慰めてくれる?」
「当たり前じゃない。親友なんだから」



 ハン、と笑って、ハツは腕を組んだ。



「私はどうあっても、アンタの味方よ。千代」



 ワタシも。どうあってもアンタの味方でいたいよ、ハツ。



 そう思ったのは、嘘ではなかったハズなのに。












 山田さんと会うのは、とても楽しかった。色んな所へ遊びに行った。遊園地だったり、山の上流だったり、海だったり。
 いろんなものも買ってくれた。ネックレスや、ブローチ、髪留め。勿論、そんなに高価ではないものだ。だけど全部綺麗でかわいくて、何だか身に着けるのがもったいなかった。


 こんな風に、女の子を喜ばせることが出来るのは、大人だからだろうか。ワタシより色々知っている、大人だから。
 それともワタシが、無知なだけだったからか。




 最初は、ハツと電話していたことから始まった。
「誰から?」と山田さんに聞かれたので、ワタシの友人のハツ、というと、「それって女の子?」と聞かれた。
 うんそうだけど。ワタシ、その子しか高校の友達いないから。そういうと、そっか、といっておしまい。だけど、何となくこの時、嫌な予感がした。山田さんの顔が、翳って見えたようだったから。



 次は、身体を触れられる不愉快さだった。
 キスなんてまだしたことなかった。当たり前だ、男なんて大嫌いだったから。見られるだけでも不愉快で。
 それでも、山田さんなら、『そういうこと』をされても、大丈夫だと思った。
 好きな人だから、多分大丈夫。なんせ、今まで男を好きになることすら考えられなかった自分が、告白して一緒になった相手だ。『そういうこと』になっても、きっと、……なんて、甘い希望を抱いていた。


 結果は、吐きたくなるぐらいにダメだった。
 キスならまだ良かった。ハグもまだ良かった。だけど、あの大きくて無骨な手で触られて、産毛が逆立った。危険、ダメ、触られたくない。

 それでも、無理やりに事を進められて、……ワタシは何も知らなかったんだと、改めて思った。

 痛かった。身体だけじゃなくて、心も。

 なんだかすごく、ポッカリと穴を開けられたみたいで。