コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 臆病な幽霊少女【登場人物更新!】 ( No.56 )
日時: 2012/10/29 20:36
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: FIlfPBYO)


 何が、『世界は優しい』だ。

 何が、『死に方を選んじゃいけない』だ。

 何が、『生き方は選べる』だ!!



 世界は優しくとも何ともなかった。優しいのは、きっとわたしの周りの世界だけだったんだ。

 死に方を選んじゃいけない、なんて、なんて無神経な言葉だろう。今わたしは、消えたい気分じゃないか。わたしは死者だからもう死ねなくて、生きていたら死を選ぶに決まっている。

 生き方は選べる? ……なら、なら、彼は死にたいほど苦しまなくても良かったんだ!!



「勝手に生きてる人の人生を散々振り回して、挙句の果てに騙していたんですよ!? それだけなら良かった!! それで、責められるならまだマシってもんでした!! 一番嫌だったのはッ……!!」



 嫌われるかもしれない。


 そう思って、保身に走って、逃げた自分が一番嫌だった。





 ……嘘は、罪です。

 罪を犯せば、罰を受けなくてはなりません。

 それから逃げた自分が、一番赦せませんでした。



 沢山赦せなかった自分のことはあったけれど、これは、一番赦せませんでした。




 ……いいえ、そうではないのです。



 ……嫌われたらどうしよう、という恐怖と、

 その後、自分はどうやって過ごしていけばいいのだろうという不安と、

 それを想った時の寂しさが、混じり混じって。





 沢山のことに、後悔した。

 赦せないとか、怖いとか、そんなもの全てに後悔した。



 ……一度だけ、謝りたいと思ったことがありました。

 けれど、謝ったって赦されないでしょう。

 謝罪は、赦してくれるまで続けなければなりません。どれだけの時間が費やされるでしょう。

 その長い間に、またわたしは、人を傷つけてしまうのではないでしょうか。


 ……それは、あまりにも嫌で嫌で。

 臆病なわたしには、それを踏まえて勇気をだすことは出来なくて。

 そんな自分にも、嫌気が差したりして。

 ならいっそのこと、このまま消えてしまおうと思った。

 憎まれるまま、自分を責め続けて消えてしまおうと思った。







「……貴女は、優しい人ね」


 声がいいました。

 わたしを慰めるように、声が、わたしを抱きしめてくれました。


 何処がでしょう。

 こんな間抜けで醜い幽霊の、何処が優しいのでしょう。


「……知っているかしら?」

「何をですか?」


 わたしが聞くと、声は更にわたしを抱きしめました。


「幽霊っていうのはね、時が止まっているの。

 だから、死後の後は、生前の時に悩んでいたことしか悩めないの。生前のまま、時が止まっているから。

 でもね、貴女は違う。時が、進んでいるの」


 声が、何をいっているか判りません。

 何がいいたいのでしょう。この声は、何を伝えようとしているのでしょう。

 わたしの心を読んだように、声はいいました。

「……ああ、ごめんなさいね。わたし、仄めかすのは得意だけど、直球でいうのは立場上ダメなのよ」


 そうですか、とわたしは呟く。


「でもね、これだけはいえるわ」


 声は、いいました。



「貴女は、そこまで責めなくていいの。そんなに、苦しまなくていいの。だからね、もっと前を向きなさい。もっと、周りを見なさい」


 ……何ででしょう。この声に抱きしめられた途端、激しい後悔が、穏やかになったんです。

 真摯に満ちたこの声を受け止めることが出来て、わたしははい、と答えることが出来ました。


「……時間が止まらないならね、未来は進むの。悪いほうにじゃなくて、きっと良いほうに進むの。

 私の知人もね、ああ今はもう亡くなったのだけど……彼女もそう信じて、ひたすら頑張って、誰に信じてもらえなくても、例え殺されそうになっても、自分の道を信じて、沢山の人を救ったわ。

 そして、自分のことを信じてくれなかった人たちにさえ、信じた。そうすることによって、彼女は沢山の味方をつけてきた。

 だから、貴女も信じなさい。世界は優しいのだと想った自分を信じなさい。生き方は選べると、証明して御覧なさい」



 はい、はい、と、よく判らないままに、でも素直に頷きました。


「……それじゃあ、後で迎えに行くわ。その時まで、ちゃんと気持ちを切り替えておきなさい」


 そういって、声がわたしの身体から離れました。


「……あ、あの」

「なあに?」

「……あなたの、名前は?」


 そういえば、名前聞かなかった。


 そう聞くと、暗闇で見えもしないのに、わたしには少女が笑う姿がみえた。




「佐保姫。佐保姫っていうの」






           やがて、春は訪れた


(そして物語は、一つの終わりを迎え、)
(新たな物語が、始まった)