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- Re: 臆病な人たちの幸福論【罪と罰】 ( No.577 )
- 日時: 2015/05/05 14:13
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: FInALmFh)
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こうやって、街を見下ろすと、判ることがある。
本当に人は、ギュウギュウ詰めに暮らしていて、本当にみんなで暮らしている。
だから、すぐに不機嫌な態度も伝わるし、ご機嫌な態度も伝わる。
沢山の理不尽に囲まれて、沢山のやさしさに囲まれて。
でも全部、もともとは一つなんだ。
たった一つから、始まったんだ。
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ガタン、ゴタン。
観覧車の上から見下げた街は、近くなったり、遠くなったり。
かれこれ二時間以上乗っていたりするワタシは、要にすべてのことを話した。
ワタシが人間だった頃。化け物になった後。そして今のこと。
要は表情を変えることなく、黙って聞いていた。
「全部知ってたよ」
そして最後に、静かにそう告げた。
「……そう」
なんとなく、要の様子を見ればわかる。だから驚かなかった。どうやって知ったの、という問いも、愚問だと思う。要はワタシを探す為に、必死に情報をかき集めたんだ。それぐらい、想像がついた。
だって要は、優しいから。
「千歳が、あんなに大きくなっているなんて思わなかった。
……要の世話も出来るぐらいに、大人になっているなんて」
「……俺も、想わなかったばい。千歳さんと千代っちが姉弟なんて」方言が少し戻っていた。
あの時取った行動は、ワタシが千歳を手放した選択は、間違っていなかった。
今なら誇れる。あの時の自分を。千歳を見た今なら、自分を許せる。だからもう、千歳を見ても逃げ出したりしない。
もう、ワタシが怖がって逃げる必要なんてなくなった。要にも、千歳にも、——健治にも。
「ワタシはね、要。別に自分が不幸だとか、そんなことはまあ……考えたこともあるんだけど。
特にね、同情されなくてもいいかなって思うの。
どれだけ理由を重ねても、どれだけワタシが不幸な境遇でも、悪いことは悪いから」
フウコは、「ワタシだってそうなっていたかもしれない」といってくれた。
でも違うんだよ、諷子。
幾らワタシの親が酷かったモノだったとしても、選んだのはワタシ。
こんなワタシでも、悪いことはしちゃいけないって、親以外の人たちからいわれていたはずなんだよ。
堕ちていったのは、自分の愚行のせいだ。他の誰でもない。
「嫌っていいんだよ、要。ワタシはどうしようもない。やってしまったことは取り返しがつかないし、どう償えばいいかも見当がつかない。愚行はワタシのせいだけど、親やお手伝いさんには沢山恨み言があるし。手に掛けたのは後悔しているけど、今もう一度あったら、多分、同じことするよ。そして多分、今のままだったら、」
ワタシは口裂け女。
きっとまた、同じように無関係の人を殺す。
……いや、次は、要を手にかけてしまうかもしれない。
化け物なんだ。姿かたちじゃなくて、心を、痛みを、感傷を、責任を、そして意志を売りとばしたら、そこで化け物になる。
きっと、畜生以下の化け物として、生き続けることになる。
「それでも……君は生きたかったんだろ」
要はいう。
「それでも、そうまでして、生きたかったんだろう。——誰かと!」
……うん、その通りだよ。
ワタシは、こんな汚れたワタシじゃない、別の何かになって、真っ白なまま、誰かに愛されたかった。
あなたが眩しすぎた。自分が持ってないものを誰かと比べることもなく、自分の不幸を嘆くこともなく、誰かを助けて、誰かに必要とされている。ワタシが、そうなりたかったもの。
でも、あなたはいつもそばに居てくれた。だから頑張れた。
ワタシもそうなってみたいと、そう思って、努力することが出来た。