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Re: 臆病な人たちの幸福論【罪と罰】 ( No.578 )
日時: 2015/05/05 14:13
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: FInALmFh)




 だから気づけたの。
 もし真っ白なら、きっとワタシは、あなたに恋をしていない。
 ワタシは自分の影ばかり囚われて、だからあなたの光に焦がれて、癒されて、励まされた。

 だから、あなたの影にも気づいた。その危うさが、愛おしいと思った。
 それが、ワタシの恋だった。


「ワタシのこと、好き?」
「好き」


 ……要、そんな間を開けず、しかもそんな真顔に応えられるとちょっと困るよ。


「どういう好きか、ちゃんと判って、」
「好きだ。とても好きだ。一緒に生きていきたい。このまま、二人で。二人っきりでも構わない。全部捨てたっていい。千代が人を殺すのを止めれなくても、一緒に汚名を被る。殺されたって構わない。それで、千代が生き延びられるなら」


 ……ああもう。要らしいや。
 冗談が苦手なわけじゃないけど、大体本気でいっていることが多かったね。

 愚直で、愚鈍で。思わせぶりなことばっかやってくれて。本当に、最後の最後まで、引っ張ってくれたものだ。



「判ってないのは千代だよ。俺が、知らない女の子を何にも思わないで引き取ると思った? 一緒に暮らして、本当にボランティア精神で千代と一緒に暮らしていると思った?」

「うわ、ワタシ下心持っている男を信用していたワケ。よく無事だったわ」

「茶化すなよ、こういう時」


 仕方ないでしょ。嬉しすぎて、顔真っ赤なんだから。見られて恥ずかしいぐらい。あなたは恥ずかしい時、ポーカーフェイスが出来るだろうけど、生憎とワタシはそんな器用なマネできないのよ。

 そういう千代は、と要が聞いてくる。


「……好きよ。大好き。
 嫌いになれないわ。どんなことがあっても。忘れない」


 ワタシはゆっくりと、手を伸ばす。
 要の肌は、少しかさつしているけれど、きれいだ。


「だから、ね。どうか忘れないで。
 ワタシはあなたが好きよ。出来ればずっと一緒に居たかった。あなたと一緒に生きたかった。……あなたと一緒に死んでもいいかしら、とも思ったわ。

 でもやっぱりだめなの。ワタシの好きなあなたは誰からも好かれて、誰からも愛されなければならない。ワタシが好きになった人は、そういう人。

 一緒に生きることも出来ないわ。ワタシはもう、人を殺したくない。化け物になりたくない。ワタシは——人でありたい」



 心を捨てれば、人ではなくなる。
 痛みを忘れれば、人ではなくなる。
 人でなくなれば、きっともっと窮屈で、自由も無くなっていくだろう。
 こうありたいと思う自分になる。その努力も、そう思う意志すらもなくなる。
 そんなのは、ごめんだ。


 ワタシは、それを要に許された。
 だから、自分を好きになれた。要を通じて、ワタシはワタシ自身を許すことが出来た。


「あなたが覚えていてくれたら、ずっと一緒に居られる。
 ワタシ、肉体がなくても、一緒にあなたと同じ風景が見られるよ。それって——とっても自由で、素敵な事じゃない?」

「そんなの、屁理屈だッ。ずるい」
「……そう?」


 本心からなのになあ。屁理屈っていわれてしまった。
 要のポーカーフェイスが崩れていく。あっという間に顔がくしゃくしゃになって、涙が零れていった。


「そんなんじゃ、まだまだ足りない! そんなんじゃ、俺が寂しいだけだッ。
 千代としたいこといっぱいあるのに。
 千代のためにご飯を作ることも出来ないし、千代のために家事を教えることも出来ない、千代から勉強を教わることも出来ない、両想いなのに恋人らしいことも出来ないじゃんかッ」

「エッチなこととか?」


 瞬時に要が固まった。——判りやすいやつめ。
 十秒間が空いて、黙ってコクリと頷く。——正直なやつめ。


「顔真っ赤なんだけど」
「うるせえ……」


 羞恥のせいか、泣きはらしたせいかはわからないけれど、羞恥であったらいいなと思う。うん。


「やらしかー……千代」
「あらありがとう。確か佐賀弁で『可愛い』って意味だよね?」


 いけしゃあしゃあ。あー、楽しい。要いじり。
 出会った当初は要に翻弄されっぱなしだったから、最後にこれぐらいはさせてもらわないと。一種の愛情表現だ。ワタシなりの。