コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 臆病な人たちの幸福論【罪と罰】 ( No.591 )
- 日時: 2015/08/24 16:11
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: FInALmFh)
入って、と促されて、わたしは掘立小屋の中に入る。
出来た掘立小屋は、ログハウスに近い構造だった。こんな立派な造りが、簡単に燃えるものなのかしら。
ドアのところで、朔君がいった。
「……ドア、開けておくから」
そういって、朔君は掘立小屋改めログハウスから出て行った。
……優しい子なんだ、本当は。
最後まで、逃げ道を用意してくれる。ここまでする義理もないだろうに。
なのにわたしは、彼の気遣いを無駄にする。
千代ちゃんを生かすと、もう決めたから。
お盆休み、ケンちゃんと一緒に、蛍と人魚が居る山を訪れた。
そこでは、幽霊も普通に見えることがあって。
……そんな場所だったのに、幽霊になった大輝君は、母親である芽衣子さんに姿を見て貰えなかった。それがさだめだというように。
わたしはなんで、こんなにも幸せなんだろう。
大輝君とも千代ちゃんとも、立場は似ていたはずなのに。なんでわたしは好きな人に見えて、好きな人と一緒に暮らすことを咎められないんだろう。
わたしだけ許されているのは、何故?
幸せな分だけ、罪悪感が付きまとう。
自分だけ幸せになって、幸せになれない人に恨まれて当然なのではないか、と、怖くてたまらない。
そこまで考えて、わたしはハア、とため息をついた。
結局、わたしは自分のことしか考えていない。誰かの為、誰かの為、といいつつも、そこにはわたしのエゴが存在する。
わたしを怨む人たちが、突然、わたしの幸せを奪うんじゃないかと。そう思うのが、怖いのです。
それが、わたしが作り出した、虚構の『不幸な人』でも。
千代ちゃんや大輝君が、わたしを怨んで、わたしを陥れたいなんて、そんなこと考える人じゃないことぐらい、わかっているのに。
そうやって怯えて、怪しい芽を摘んだ結果、こんなことになっている。
黒い煙が、ログハウスの中に入って来た。
座ったままのわたしは、まだ煙が降りてこないのにも関わらず、息が苦しい。
「……バカ」
胸が苦しい。
大馬鹿。本当にバカ。また昔のわたしに戻っている。辛いことが何もないはずの世界で、引きこもっていたわたしに。ケンちゃんに助けられる前のわたしに。少しは強くなれたと思ったのに。
あの時、怖かったのはケンちゃんで、今回は千代ちゃんだということ。それだけ。
……でも、いいですよね?
千代ちゃんは瀬戸君と、瀬戸君は千代ちゃんと一緒に居ることを望んでいる。その願いのために自分は動いたと、そう思っていいはず。
誰かのために生きたかった。『一度』死んだ時、家族の顔を見ながら、長い眠りにつく際、そう願った。その願いが、叶ったと思っていいはず。
だってもう、自分は死ぬのだから。最後の最後は、自分を許したっていいはず。
思い残したことはいっぱいある。これが正しいこととは思えない。
だけど、また永い眠りにつくとき、悪夢を見ることはないだろうな。あの時と今は、違う終わり方だから。
そう思ったら、無意識に瞼を閉じていた。
暗い微睡に、手招きされて
(「ああ、いいなあ」)
(「こういう終わり方で、良かったなあ」)
(胸の中のおもりが、ストンと抜けるようだった)