コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 臆病な幽霊少女【参照五〇〇突破記念更新!!】 ( No.60 )
- 日時: 2012/11/02 17:00
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: FIlfPBYO)
第一章 春を迎えた文学青年
チクタク、チクタク。
チクタク、チクタク。
目覚まし時計の針の音が、耳元で響く。
……カチ。
ジリィィィィィン!! と、激しくなるアラーム音を、俺はすぐに消す。
むくりと起き上がって、確かめてみるとちゃんと六時。
「……何時も通りか」
最近、アラームが鳴りだす前に起きることが多くなった。暖かくなったせいか、布団からもすんなりと出ることも出来る。幾ら目覚めが良くとも、何ヶ月前までは、暖かくなるまでぐずぐずと布団の中に居たのだが。
いや、それ以前に俺は低血圧で、昔だったらこんな時間に起きるなんて自殺行為に等しいのだ。なのに、最近はどうして目覚めが良いのだろうか、と、いろんなことを考えてみる。
まあ、考えたって、答は出やしないけど。
「……自殺、ね」
ふとそんな単語を漏らし、思い出したのは、
屈託なく笑う、アイツの笑顔だった。
◆
俺こと三也沢健治は、来週で高校三年生になる。
といっても、別に最後の高校生活を楽しもう、とか、大学いく為に頑張るぞー、とか、そんな気持ちを持って張り切っては居ない。高校三年生になろうがなるまいが、俺にとってはどうでもいいことだ。
まあ、とにかく今は春休みなのである。だったら二度寝しよう、と普通の学生は思うだろうが、そうはいかない。
遅く起きれば、母親と顔を合わせることになるからだ。
昔から、そうだった。
そんな昔から、冷たい態度をとられちゃ、流石に見切りだってつく。
……俺は、あのバカを母親とは思っていない。その逆に、あのバカも俺のことを息子だと思うつもりは、これっぽっちもないしな。
そんな奴と顔を合わせるたびに罵声を浴びせられるなんて、極力避けたい。だから、さっさと起きて、さっさと家を出ることにしている。
俺は適当に昨日のあまり物をついで、朝ごはんを済ました。今日は、お手伝いさんはお昼頃から来るらしいので、一人で済ませることが出来た。あまりお手伝いさんとも上手くいっていないので、嬉しい限りだ。
後であのバカ母に文句をいわれるのは嫌なので、食器を洗って着替える。今日は暖かいので、あまり着込まないでもいいだろうと、薄い長袖の上にフードのついた上着を着て済ませた。
課題と借りた本をバックの中に入れ、俺は家を出る。
今日は、図書館で課題でもすっか。
物心ついたときから、俺には父親も居ない(離婚して家を出たからだ)。母親は居たが、母親らしいことはされていない。誰一人、味方なんていない。
ずっと、ずっと独りぼっちだった。だったら、それでいいと思った。
人の心などわかりはしないのだ。どんなに一緒に居ても、例え血が繋がっていても、全部を判り合えることなど、ありえないのだ。
結局、人は一人で生きていくしかないのだ。そう、悟りきりようと思ったけれど。
誰にも必要とされず、誰も必要としないなら、生きている意味なんて、何処にある?
何処にもなかった。
全部がどうでも良くなった人生に、何の意味があるのだろう。
だから、死のうと思った。
当時はどうして死にたいのか、フワフワしていて良く判らなかったけれど、少し時が流れた今なら判る。
どうでもいい人生なら、早く終わらせたかったからだ。
……そう思って、学校の屋上に上って、飛び降り自殺しようとしたところを、
俺は、アイツ——宮川諷子と出逢ったのだ。