コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 臆病な幽霊少女【参照五〇〇突破記念更新!!】 ( No.61 )
- 日時: 2012/11/02 17:03
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: FIlfPBYO)
「……そうか、あれは確か、高一の冬近い秋だっけ」
ふと思い出して、呟いてみる。
「もうそんなに経ったんだなあ」
心の底からそう想った。
あれから、一年と少し。もう、辺りは春の風景である。
この地域は結構な田舎で、田んぼがそこらじゅうにある。このあぜ道を通って、右角に曲がったところに、俺がめざしている図書館があった。なんとまあ、……田舎だよな。
だが、この穏やかな空気は、俺は気に入っていた。排気ガスの空気は、好きではない。それに、ごちゃごちゃした音もなく、一人でゆっくりと静かに過ごせるこの道は、俺には合っていた。
今日は、少し暖かいから、散歩でもしようか。どうせ夜まで母は家に居る。今日は七時頃に出勤らしいから、それまで外で過ごそう。
そういや、学校の隣の神社に、桜が咲いてたっけ。そこに寄ってみようか。
「……桜、そういやアイツは好きだったよな」
アイツ——宮川諷子、おれはフウと呼んでいた。フウとは、以前そんな話をしたことがある。……確か、桜の精霊の主人公の本のことを話していたときだっけ。
「……桜の季節とは、真反対に季節に出逢ったなあ」
せっかくだったら、桜の季節に出逢いたかったなあ、と、どうしようもない願いを心の中で呟く。
俺とフウが出逢ったのは、屋上から飛び降り自殺しようとしたのを、フウが止めたのがきっかけだった。
それから、図書室の奥の部屋でちょくちょく会って、くだらない話をしたり、本を読んだりしていた。
あの時ほど、楽しい時間はなかった。昔はやっぱりよく判らなかったけれど、今なら良く判る。
けれど、フウは居なくなってしまった。居なくなったというより、突然消えてしまった。
居なくなったのは、フウの存在が、俺にしか見えないと気付いたときだった。
その時、フウは幽霊だったと思った。幻覚といわれちゃ、それでおしまいだが、俺は幽霊なのだと判った。他の人に話したら、重度の精神病患者と思われるだろう。自分が可笑しいのは、最初から知っている。
だが、フウのお陰で、生きている意味を見出せたことは確かなのだ。
そんな大切な存在を、本当は嘘だったなんて、思いたくはなかった。
……フウが消えて、俺はまた、つまらない日常を送っていた。
悲しかったし、寂しくもあった。後悔もあった。沢山伝えたかったことはあったのに、気付くのは全て遅かった。
俺は、阿呆だな。何時も何時も、自分のことはわからじまいで、気付くときには全てが終わっている。
楽しかったことも、辛かったことも、伝えたかったことも——あやふやで、ふわふわしていて、それを形容できる言葉を知るのは、何時だって後なのだ。