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Re: 臆病な幽霊少女【第ニ章 パート1更新!!】 ( No.67 )
日時: 2015/05/09 21:53
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: gKP4noKB)





 着いたのは、大きな病院だった。

 俺と杉原は、二人の後をついていく。

 カツン、カツン、と静かな廊下に、足音が響いた。

 この調子だと、入院している誰かに会いに行くのだろう。

 その人は恐らく、フウとも関りのある人。

 一体、誰なんだろう。

 隣には、杉原が困惑した顔で歩いていた。

 フウのことを知っている俺は、微妙についていけるんだが、何も知らない杉原は、何のことやら、そして何故自分が連れてこられたのか判らないんだろうな。

 杏平さんは、杉原に「人手が欲しい」といっていたけれど……人手というのは、一体なんだろう。




 沢山の謎が、フワフワと俺の頭の周りを飛んでいる。



 一体、この人たちは俺達に、何を見せてくれるのだろう。

 少しだけ、胸の鼓動が速くなった。







 カツン、と前に居た二人が止まる。俺達も合わせて止まった。


「……ここだよ」


 美雪さんが顎をくい、と上げる。

 杏平さんが、ドアを開けた。







 この時俺は、見ていなかったんだ。

 病室にある、表札に書かれた名前を。

 だから、その病室に誰がいるのか知らずに、







——病室に、足を踏み込んだ。

















 病室は、個室だった。

 清潔な白だけがあるような、そんな空間。それ以外の色は、少なくて。

 目に映るものは、静かなもの。

 それに逆らうように、ピッ、ピッ、という機械音が静寂を切り裂く。

 俺は、奥へと進んだ。

 風で踊らされている白いカーテンのせいで、寝ている病人の顔が見えなかったからだ。



 ゆっくりと、近づく。

 あ、白い肌が見えた。

 今度は、鮮やかな黒の髪だ。赤いリボンが映えそうな、そんな色。




 この色……見覚えある。



 ここまで来て、俺の心臓は人生で一番、跳ね上がったと思う。



 まさか。


 そんなことあるのか。


 はやる気持ちで、顔を覗く。





 その顔を見た途端、俺は、跳ね上がっていた心臓がいきなり止まったように感じた。










「嘘だろ……?」






 ああ。

 嘘じゃない。


 今まで一番会いたかったソイツが、

 呼吸器と、点滴をつけていたアイツが、穏やかな顔で寝ていた。




「フウ……なのか?」



 震える声で呟いた俺に、そうだよ、とアイツの声と笑顔が返って来た様な気がした。












 恐る恐る、俺はフウの手を握る。

 固いし、冷たい。まるで大理石のようだ。

 元から肌は白いが、血の気がなくなって更に白くなっていた。




 でも。


「……生きている」


 ちゃんと、フウは生きていた。





「えっと……この人は」


 一緒に見ていた杉原が、戸惑った様子で聞く。

 すると、美雪さんは、淡々と予想していたことと、予想外のことを答えた。



「宮川諷子。大正生まれの女の子で、結核で亡くなった——と、思われていた。

 私の、お祖父ちゃんの妹に当たる方です」




                 ◆




 少し、不思議な昔話をしよう。

 宮川家には、五人の兄妹が暮らしていました。

 しかし、そのうち二人は幼い頃に亡くなり、残ったのは長男、次男と、病弱な長女の三人でした。

 両親と長男、次男は、それはそれは、大切に長女を守っていました。ですが長女は当時治らないといわれていた結核にかかっており、十六歳になるかならない頃に、すう、と息を引き取りました。

 長女の死を誰よりも嘆き悲しんだ長男は、長女の遺体を自分の嫁ぎ先の神社の境内に、そっと埋めたのでした。







 ……ここまでは、ありえるような話。

 ここから先は、普通の科学じゃありえない話。



 実は長女は、生きていたのです。

 長女は仮死状態でした。そして埋められ、さまざまな条件を越えて、死ななかったし、腐らなかったのです。

 ですが、例え生きていても何も食べず飲まずに生き続けるのは不可能なこと。何故彼女は、水分すら摂取せずに、しかも百年近く姿を変えずに生き続けられたのでしょう?


 ここから、更に不思議な話。


 それは、彼女が長い間、冬眠しているからでした。

 冬眠は、時間を止めることそのものだったのです。

 つまり、身体の時間を止めているから、栄養も水分も摂らずに済んだし、呼吸もせずにすむし、腐敗が進むこともないし、肉体が老化し続けることもなかったのです。

 そしてそのまま時間が経過し、あるお方が私たちに命令し、私たちが掘り出すまで、ずっとずっと土の中で生きてきたのでした。


 そして現在、この病室で寝ているのが、その長女で、長男である私の祖父の妹、宮川諷子さんなのです。