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Re: 臆病な幽霊少女【第二章 パート2 更新!!】 ( No.68 )
日時: 2012/11/06 21:00
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: FIlfPBYO)


                      ◆


「私たちが諷子さんを掘り出したのは、一ヶ月前のことです」


 美雪さんの一気説明が終わると、空間は何ともいいがたい沈黙がのしかかってきた。

 ニコニコと笑っている二人は、あまりにも肝が据わりすぎている。
たった今事情を知った杉原は、ポカンと口を開けていた。


「……えぇぇえぇ!?」


 やっと我に返った杉原が、驚愕を表す。


「杉原、気持ちは判るが、ここ病院」

「あ、ゴメン……」



 俺が軽く宥めると、杉原は声と感情を抑える。



「で、でも、ありえませんッ。イキナリ、そんなこといわれても信じられませんッ」

「うん、それが普通の反応だよね」


 杏平さんは、相変わらず爽やかな笑みを保っている。隣で、美雪さんもウンウン頷いていた。


「私たちも色々あったけれど、今回は流石に……。

 でも、現に宮川諷子は生きてるわけだし」

「だな。ありえないってこそが、ありえないんだから、ね。奇跡だって魔術だって神様だって幽霊だって、色々見てきたから、そこまで驚く必要は無いな」

「ねっ」



 美雪さんと杏平さんは、見合わせて頷く。


「そ、そんな……」

「まあ、雪ちゃんの反応は当たり前なんだけど……とりあえず、それは置いといて」


と、美雪さんはエアで物を移動させ置く仕草をする。






「——健治君は、然程驚いていないようだね」

「ええ、まあ……」

「やっぱ諷子さんが霊体になっている時にあったから?」


 美雪さんの言葉に、ピクリ、と眉間の筋肉が動いた。


「(全部お見通し、ってか……)」


 そうじゃなきゃ、初対面の俺に「宮川諷子って知ってる?」なんて聞かないだろう。

 どっから知ったのかは判らないけど……。

 やっぱ、美雪さんとフウは、血縁関係だったんだな。予想できていたけど。話を聞いている限り、フウが生きていたということは、あの時のフウは幽霊ではなく、生霊だったのだろう。


 仮死状態のことは良くある事だし、冬眠計画だって、最近じゃ結構話が上がっているし、死体が腐らない話も、フランシスコ・ザビエルだっけ? その遺体が土に埋まっていても腐らずまんまあった、っていう話も聞いたことがある。

 学者じゃないから、可能不可能なんて下せないけれど、そこまでありえない話ではないと思う。


 与えられた情報を整理してみると、何処か吹っ切れた気分になった。





 ——何にせよ、俺は既に、一般論じゃ通じない出来事に出合っているんだ。

 今さら、常識や科学論が通じない出来事にあっても、そんなに驚くことはない。

 自分はここまで順応性が高かっただろうか。それとも、殆どのことには無関心だったから、実感が湧かないだけかもしれない。



 それでも。


「……え、幽体って、どゆこと?」

「ああ、それは後で説明する」


 杉原の最もな質問に答えてやりたかったが、それは置いといて、一番聞かなくてはならないことを聞いた。









「——フウは、ちゃんと目覚めるのか?」









「……いきなり、核心をついてきたね」


 美雪さんが、フッと笑う。安心したのではなく、問い詰められて諦めたような笑い方だ。


「俺は医学なんてこれっぽっちも知らないけれど、長い間人間が眠り続ければ、どうなるかなんて、すぐに予想つく。

 ——先は、死だ」


 俺は、美雪さんを真っ直ぐ見つめていった。