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Re: 臆病な幽霊少女【第二章 パート2 更新!!】 ( No.69 )
日時: 2012/11/06 21:02
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: FIlfPBYO)


 隣で、杉原が息を呑んだ気配を感じた。

 斜め前で座っている杏平さんが、笑わずじっと俺を見つめた。

 真正面に立っている美雪さんが、俺の視線から逸らさず、見つめ返していた。



「その通りだよ、健治君」


 杏平さんが答えた。
 何時になく、真剣な顔だ。


「土の中だったら、もっとずっと生き続けられたかもしれない。でも、俺達がこの人を掘り出すことで、生き続ける様々な条件が打ち破られた。このまま冬眠することは、もう不可能だろう。結核菌も既に滅亡しているが、固まった血が呼吸器官に詰まっていて、呼吸も不可能だった。……院長が、あの手この手で何とかしたけどね」



 最後らへんは、聞かなかったことにしよう。



「今は冬眠でも仮死状態でもなく、こん睡状態だ。呼吸は呼吸器で補い、栄養は点滴でどうにかしている。……けれど、もうすぐ、それも意味が無くなる。多分、一ヶ月持つか持たないか、だな」

「……良く判らないけど、とにかく、このままだと死んでしまうんですか?」



 杉原が聞くと、杏平さんは真剣な顔のまま、コクリと頷いた。

 杉原が、嘘だといっている顔で、フウの顔を見つめる。



「……ここまで来て、キミは、もうここに連れ去られた理由も検討がついているのかな?」

「——大方なら、な」

「ええ!?」



 杉原が驚いて、席を豪快に立った。



「ほら、杉原。ここ病院」

「あ、ご、ごめん……でも、三也沢君判ったの!? あたしなんて、ちんぷんかんぷんだよ!?」



 だから、普通の反応ならそうなんだってば。

 事情を知っていても、こんな突拍子もない事情に巻き込まれたら、着いていけないのは当たり前だ。

 それは、俺が特殊なのを指しているのか、それとも異常なのを指しているのか。















 ——だが、どうだっていい、そんなことは。






「今日、俺をここにつれて来たということは……俺に何か、出来る事があるから、じゃないか?」






 俺の言葉に、ワンテンポ遅れて美雪さんが、口元を吊り上げて笑う。

 肯定の意味を指していた。




 異常? 化け物? そんなの、実の母親からいわれなれている。

 だったら、俺はそれでいい。


 今、フウに何かできるとしたら、何にだってなってやる。




 ……今、とんでもない危機状態だっていうのに。

 長い間眠っている人を起こす確率なんて、ゼロに近いのに。



 どうしてか、心臓の鼓動の速さが戻らない。

 早く、早くとせかすように、心臓が動く。

 なのに、頭は意外とすっきりしていて。





 どうしてか、フウを助け出してみせるという気持ちが、あふれ出して止まらない。

 フウの姿を見た時から、今まで諦めていたものを、全部掴みたくなるような、そんな気持ちでいっぱいだった。





           困惑する文学青年は、それでも前進する



(ほら、この世界は、奇跡はあるって事を、キミが教えてくれた)

(だから今度は、俺が奇跡を起こす番だ)



(キミがいったとおり、まだ世界は、捨てたもんじゃない!)