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- Re: 臆病な幽霊少女【参照600突破記念小説更新!!】 ( No.73 )
- 日時: 2012/11/10 18:08
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: FIlfPBYO)
第三章 前進する文学青年
朝目が覚めて、俺は飯も食わず、支度を済ましてすぐ家を出た。
まだ少し冷える春の朝は、自転車で走るには丁度いい。
コンビニで適当に買ったモノを朝食として済ませる。そしてその後、病院へ行く。
——これが、俺の日常となっていた。
◆
あの日、美雪さんたちが俺達に出来ることを提示したのは、
『出来るだけ、諷子さんの隣に居てあげて』
とのことだった。
昏睡状態の人を起こすのに一番効く薬は、呼びかけたり、話したり、とにかく傍に居ることらしい。一見、小さなことだが、実はとても大変なことである。
何故ならば、呼びかけても反応はないし、本当に根気良くやらねばならないからだ。
しかし、その方法で、長い間昏睡状態だったのにも関らず起きた人は、実は結構いる。調べてみたら、反応はないが、眠っている間のことを覚えているという、不思議な例もあった。
だから俺は、こうして毎日、病室を訪れているのだ。
フウの手を握って、何時も通り話かける。
「フウ、今日はな、朝飯はセブン●レ●ンで買ったんだ」
……といっても、友だちがいない俺にとっては、話のネタなんて皆無に近いんだけどさ。
だからこうして、朝飯の話しかしてない。一週間。
……そろそろ飽きるだろうな、このネタ。
——看病してから、一週間。明々後日から俺は、また退屈な学校生活に戻る。
そうしたら、こんな風に一日中付きっ切りでいられなくなるだろう。
本当は休んでも看病したいところだが、生憎高校は義務教育ではないので、出席数が足りなくなったら留年、なんてことになる。それだけは流石に避けたかった。
……というかその前に、周りが許さないだろうけれど。
そうなったら、フウは、寂しくはないだろうか。
たまに美雪さんたちが来るけれど、やっぱり訪れる人は少なすぎる。
……そうなった時、フウはこっそり息を引き取ってしまうんじゃないだろうか。
そっと、フウの手を握る。
その手はあまりにも冷たかった。
コイツは、一体何を思って眠っているんだろう。
半世紀以上も肉体の時間が止まっていたのは、偶然だろうか。
生霊としてさ迷い、自殺しようとした俺を止めたのは、偶然だろうか。
美雪さんたちは、「キミなら諷子さんを助けることが出来るって、あるお方にいわれてね」といっていた。そして、最初にたまたま見かけた杉原に声をかけたそうだ。
……そこに、杉原と知り合いである当人の俺が通りかかったのは、偶然?
——全部、必然に思えた。
思えば、どうして俺はフウのことを、幽体だと信じて、幻覚だと疑わなかったのだろう。
一応理由はあるような気がした。でも、しっくりこなかった。
それだけじゃなかった。
俺以外に見えなかったフウは、どうして自殺しようとして止められたあの時——俺が見えていると気付いたとき、それほど動揺していなかった。
普段は気付かれないのなら、見られていると気付く時、驚くような気がするのに。それこそ、幽霊を見た人間が驚くように。
ひょっとしたら、俺に出会う前も、俺のように見えている人がいたのかもしれない。そういう可能性もある。
だが、そうじゃなかったら。
俺たちは、何も疑わず、傍にいられていたとしたら。
……何時から俺は、乙女思考になったんだろうなあ。
『運命』とか、『奇跡』とか、そんなことを考えるなんて。
だが、今の俺は思えた。
コイツと出逢ったことは、運命だと。
理屈とかそんなんじゃなくて、ただ受けいることが出来たのは、全部「そういうことだった」からだと。
今は、そんな風に考えられている。