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Re: 臆病な人たちの幸福論【第三章『前進する文学青年』更新!!】 ( No.84 )
日時: 2012/11/12 18:50
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: FIlfPBYO)

『参照七〇〇・八〇〇突破 【ある日のこと】』


注意!
 この話は、『参照五〇〇突破記念 【もしも】』>>57の諷子視点で続きです。



















 この日わたしは、

 彼を試そうと思った。


「ねえ、ケンちゃん」

「ケンちゃんいうな。どうした?」



 恒例の会話が繰り返される。

 けれど、わたしはわざと、本を読みながら聞いてみました。

 何時もだったら、目を合わせて話すけれど。


 そして、普段のわたしだったら、こんな質問はしなかったかもしれない。




「もしもですよ、明後日地球が滅亡したら、明日、何をします?」




                ◆


「……また、随分突拍子な質問だな」


 ……ほら、思ったとおり戸惑ってる。

 じゃなきゃ、本から目を離したりしないですし。


「その本は、地球滅亡について書いてあるのか?」


「いいえ」



 彼の質問に、わたしは首を振る。


「何となく、思っただけです」


 そう返すと、そうですか、と彼は返してきました。


「で、だとしたらどうしますか?」


 ペラリ、とページをめくって、わたしは聞く。





 ——貴方は、何て答えるだろうか。








 何も、地球最後の日じゃなくても、わたしも、彼も、何時か消えていく。

 元々、わたしは死んでいて。……何時か、この世界から離れないといけない日がやってくるでしょう。

 そうじゃなくても、わたしの最後はきっと、彼が離れていく時。


 わたしは、この学校に縛られている。所謂、自縛霊という奴でしょうか。

 そうなったのは、この学校が元々わたしの家(帰る場所)だったからか。

 どんな理由であれ、わたしは、この学校から離れることは出来ない。


 けれど、彼は、何時かはこの学校を離れていく。

 だって、彼にとって学校は、帰る場所ではないから。

 後二年で、彼はこの図書室には来ないでしょう。

 高校を卒業すれば、きっともっと楽しいことがある。自分の足で、何処までもいけるようになる。

 彼にとってそれは、解放に近いものだと思うから。




「(でも、わたしは……)」



 何時消えるか判らない。

 何時解放されるか判らない。


 そしてその解放が、本当に望んでいるものかすら、判らない。



「(……それが怖くなった、何て)」



 いえるわけがない。

 いったら、それこそわたしはおしまいで。


「(それに、もっともっと怖いことは……)」




 ——それこそ、いいたくもないし、思いたくもなかった。

 いや、当たり前のことなんです。

 彼とわたしは、全く違う。

 勿論、別々の人間ということもあります。育った環境も違います。

 嗜好だって違うし、今彼が何をいおうかとしているかも予想つきません。

 それでも、その前に。



 彼とわたしは、生きている者と死んでいるモノです。

 わたしは止まることに居心地の良さを感じていますが、彼は進まなくちゃならない。

 それを止めることは、わたしはしちゃいけないでしょう。


 分かり合えることなんて出来ないって、わかっているつもりなのに。


 だから。こんな気持ちを悟られたくないから、わたしは本で自分の表情を隠しているのかもしれない。



「……そうだな」


 フッと、彼が笑ったような気がした。





「せめて、最後の日は、二人で、全力で笑おう」






 ——でも。でもですよ、神様?

 どうしても、期待してしまうんですよ。

 止まっている人間が、一緒に生きている者と歩けるんじゃないかって、分かり合えるんじゃないかって。





「……それは、最後の日じゃなくても、出来ることだよ」






 ——ずっと、一緒に居られるじゃないかって、期待、しちゃうじゃないですか。




 あ、そうか、と貴方が笑う。

 それに思わず、わたしも笑い返す。


「じゃあ、地球滅亡の日よりも、生きていることを考えようか」

「どうゆうこと?」


 彼のいっていることが、いまいち良く判らなくて聞き返す。

 すると、彼は照れた様子で、こういった。


「とりあえず、俺と目を合わして話してくれ。何か、寂しかったから」


 勿論、これからは俺も目を合わして話すから、と彼は続けた。

 ……意外な回答に、わたしは思わず目を瞬かせた。



 ——でも、嬉しかった。

 わたしが一方的に話しているのは、やっぱり少し寂しかったから。

 それを、判ってもらえたような気がして。

 わたしは笑って、茶化すようにこういった。



「今さら、気付いたんですか!」


 すると、彼は俯いて、


「今さら気付きました」


 といった。


「あー!! 目あわせてない!」


 わざとらしく注意するわたしに、あ、ゴメン、と慌てた彼がいう。


「こりゃ、当分意識して取り掛からないと難しいようですなー」

「ソウデスネー……」

「じゃあさ、指きりしよう!」

「……この歳でか?」

「そうじゃなきゃ、約束破りそうじゃない! ケンちゃん」

「ケンちゃんいうな。何か、歳が巻き戻った気分になる」

「見た目は子供?」

「頭脳は大人……っていわせんな」


 呆れた顔で、それでも彼は、小指をさしだしました。

 わたしはニコニコ顔で、自分の小指を彼の小指に絡める。







「「指きりげんまん、嘘付いたら針千本のーます」」



 図書室のとある部屋で、ノリノリなわたしの高い声と、だるそうな彼の低い声が、隅っこで響いた。



           とある少年と少女の小さな約束



(そしてその二つの約束は、)

(わたしが自ら破り捨てた)