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Re: 臆病な人たちの幸福論【間章更新!!】 ( No.95 )
日時: 2012/11/15 20:55
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: FIlfPBYO)

第四章 平凡少女の行動


 最後の高校生活が始まって、二週間が経った。

 あと一週間程度でフウは死んでしまうかもしれないのに、フウはまだ目覚めない。

 俺は相変わらず、フウの病室に通っている。

 美雪さんと杏平さんは、春休みが終わった為、自分たちが通っている大学のある東京に戻ってしまった。今年一緒のクラスになった杉原は、あの日から来ていない。それどころか最近、学校にも来なくなった。

 たった一人で、俺は見栄えしない日常に焦りを感じながら漂っている。

 ただ、変わったことといえば。







 ——桜は既に、散ってしまったことだろうか。



               ◆



「今日はな、フウ。ちょっと面白いことがあったんだ」


 何時ものどおり、俺はフウに語りかける。

 何時ものどおり、フウは返事をしないけれど。



 やせ細った手を握りながら、ゆっくりと話した。


「ダメナコがな、相変わらずのサボリ癖で、とうとう校長に呼び出されたんだよ。

 お前はひょっとしたら知ってるかもしれないけれど、校長ってセクハラするので有名でな。それでも何で校長の職に就けているのかはわかんないけど……。

 まあ、とにかく、今回も懲りずに、説教しながらダメナコにセクハラしたらしいんだ。そしたらダメナコ、手元にあったマグをひっくり返して、中に入っていた淹れたてのコーヒーを校長の頭へ思いっきりぶっかけたんだ。丁度校長室に用があって入ったらブッシャアアアアアアアア!! だったからビックリだよ」



 思い出したら、噴出してしまいそうなところを何とか堪える。



「んで、更に宮沢賢治の本……『よだかの星』だっけ? その本の角で殴ろうとしたからさー、流石に止めたよ。本で人殴るって本への冒涜なのに……ホントアイツ司書なのかな。

 なあ、フウ。何で俺の周りの大人って、まともな奴いねーんだろーなー」


 ハッハッハ、と乾いた声で笑ってみせる。


「……」



 それでも、フウは笑ってくれない。

 きっとあの時だったら、転がって笑っていただろう。

 俺みたいに堪えることなんか出来ない素直なアイツは、それぐらい凄いから。



「あー……。

 何してるんだろうなあ、俺」


 でも、今は、答えてくれない。

 今の状況は、口がない人形に話しかけているのと同然だ。




 当たり前だと思っても、やっぱり辛い——。

















 ピクリ。





 ……今、気のせいだろうか。

 彼女の小指が、動いたように見えたのは。






 ピクリ。



「……!?」





 気のせいじゃ、ない!

 今、ちゃんと手が動いた!


 かっと、体温が上昇する。

 そのまま俺は迷わず、呼び出し音のボタンを押した。