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Re: 臆病な人たちの幸福論【第四章 パート1更新!!】 ( No.97 )
日時: 2012/11/15 21:14
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: FIlfPBYO)


 思い出すのは、バカ母のあの顔。

 あの顔が、一時期俺を縛っていた。でももう俺には効かない。

 効くわけがないんだよ。





『ねえアンタ、最近植物人間の看病しているんだってぇ?』

『殆ど死体に話しかけるとか、アンタこそ精神科にいったほうがいいんじゃなぃー』









『あんな子、すぐ脳死になるわよ。無駄だってこと、そんなことも判らないの?』










「……っ」




 頭の中で、汚い声が木霊する。


 違う、と俺はいえなかった。

 無駄なことじゃない、フウは絶対助け出してみせると心の中では思っていても、いえなかった。



 それは何処か片隅で思っていたから?







「……くそ!!」





 何がしたいんだあのアマ。

 何でトコトン人の神経を逆撫でるんだ。

 お前なんかに、何が判るっていうんだ!!




 躍起になりたくても、なれない。

 壊したいものなんて、この部屋には一つもないから。

 だから、暴れたい気持ちを堪えて、もう寝ようとした。






 けれど、その日は眠りにつくことは出来なかった。



                      ◆


 翌日、俺は熱が上がった為、学校を休むことにした。

 バカ母は仕事なので、お手伝いさんに粥を作ってもらい、一日中寝て過ごした。元々あんな奴に頼るつもりはないけど。

 動くこともだるくて、何だか頭がボーッとする。


「(風邪でも引いたか……?)」


 風邪なら、明日ぐらいで治るだろう。そう俺は思っていた。

 だが次の日も、そのまた次の日も、そのまたまた次の日である今日も、熱は下がったものの、だるさが取れず、頭がボーッとしているのだ。



 それは日に日に増してくる。



「(……あー、嫌だなあ)」




 学校に行くのも、病院に見舞いにいこうと考えるのも辛い。

 こうなっている原因は、流石に判った。





「ちくしょう……何であんな言葉に堪えてるんだよ、俺……」


 効くもんか、といっておいて効いてる。

 ああ、仕方がないほどヘタレじゃないか、俺。





 今、フウはどうなっているんだろう。

 もうすぐ、死期が迫る。更にやせ細っていないだろうか。





 ……想像するだけでも怖く、重かった。




 ひょっとしたら、もう皆諦めたんじゃないだろうか。

 美雪さんも、杏平さんも、連絡先を交わしたけれど、一向に連絡はこない。

 杉原にいたっては、あれから来ていない。



 それは、皆もう諦めたからじゃないだろうか。

 ……だったら、俺も諦めるべきか?


 フウはもうダメだと、諦めるべきか?





 諦めるもんか、絶対に救い出すとかいっておいて、なんだこの有様は?







 考えるだけで、体が重くなる。

 それを振り払うように、首を振った。



「……今日は、学校行こう」



 流石に今日は、行こう。



                     ◆



 行こうと決めたものの、やっぱり身体はだるくて、結局午後からいくこととなった。

 授業は殆ど受けられないが、いかないよりましだ。

 何だか妙に緊張して、ガラ、と戸を開けたその先は、










 ——誰も居ない教室でした。





「……あり?」






 ずっこけそうになった。

 一瞬、教室を間違えたかと思って、表札を見る。

 だが、やっぱり間違いではない。



 今日は体育だったか……? と思い、中に入ると、黒板に大きく字が書かれていた。




『三也沢健治君、来たのなら図書室に来なさい!! ……byクラスの皆』


「命令形ですか」


 思わず突っ込んでしまったが、教室には俺一人なので、聞かれることはなかった。



「(……ってか、図書室って)」



 一体何があるんだ?