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- Re: 臆病な人たちの幸福論【第四章 パート1更新!!】 ( No.98 )
- 日時: 2012/11/15 21:13
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: FIlfPBYO)
と思いながら、やってきました図書室。
ドアの向こうには、ガヤガヤとした、そこまで五月蝿くは無いんだが、騒がしい声が聞こえる。
何か妙にドキドキしながら、ドアを開ける(あれ、デジャヴ?)。
——ドアを開けると、そこは人と桜でいっぱいでした。
「……は?」
一瞬、頭が真っ白になった。
「あ、三也沢君!」
「え!?」
端にいる杉原の言葉に、クラスの皆が反応した。
そして、一斉に振り向く(何か怖い)と、ワアアアアアアアアアア!!
と、五月蝿くなった。
「うおおお! 三也沢じゃねーか!」
「大丈夫!? 三日も休むなんて、インフルにかかったんじゃないかって心配したんだよ!?」
「まあとにかく来い来い!」
皆が一斉に話し出す。そのお陰で何いってんのか判らん。
……とりあえず。
「部屋、間違いました」
「「「待て待て待て待て待て待て待て待て」」」
俺がドアに手を付けた途端、杉原の細い手が、俺の手を掴んだ。
「ちょ、待ってってば!」
「いや待て待て待て! 今俺の台詞!」
あの遠い端から、一体0,何秒で着いたお前!! しかもなに、この握力!! 痛い、痛いって!!
「何? 何ここ? ここ図書室じゃなかったっけ? 何で本じゃなくて桜の花が咲いてるんだよ!?」
「三也沢君、落ち着いて! これ絵!! 絵だってば!!」
「……絵?」
杉原の言葉に、目を瞬かせる俺。
よく見ると、それは確かに桜の絵だった。
「……ほら、三也沢君、諷子さんに桜見せたかったなあ、とか呟いてたでしょ?」
「あ、ああ……」
「だからね、絵で表現してみようって思ったの。あたし、元々絵好きだったし、中学じゃ美術部だったからさ。で、本当は油絵にしたかったんだけど……」
杉原がジト目で見つめる先は、キョドキョドしているチャラ女だった。
「いや、あの時はホントにゴメンって……」
「まあ、もういいんだけどさ……」
ああ、ナルホド。おおよそのことは理解できた。
そして杉原よ、「もういい」といいつつ目が笑ってないぞ、コワイ。
「そしたら、皆で書き直そうってことになって……せっかくの大人数だし、部屋いっぱいに絵を描いて、諷子さんが退院したときに、本当にお花見しようって話になったの」
「それで、図書室はこうなってるわけか……ダメナコならあっさりと許可しそうだけど、良く担任にも通ったな」
誰だっけ、今年の担任。初老で、良い意味でも悪い意味でもテキパキやりそうな感じの男教師だったけれど……。
その質問には、俺の直ぐ傍に居た男子生徒——確か、上田だっけ? が答えてくれた。
「ああ、何か『いいぞ! それでこそ青春だ!』とかいって、当分午後の授業は全部取り消しにしてもらったよ」
「何その熱血教師キャラ」
ってか、アバウトだな。俺ら高校三年生なのに、んなことしていいのかよ。
「あ、でも桜の絵描き終わった後は朝補習放課後補習必須だってさ」
さいですか。いや、そこまで都合のいい話は無いと思ってたけどさ。
「……にしても、綺麗な桜だな。絵がニガテなやつだっているだろう?」
よくよく見ると歪な桜はあるが、遠めで見ると本物そっくりである。
「ああ、それは……」
「あたしのお父さんに、特別講師させてもらってるの」
上田の言葉を、杉原が遮った。
「……へ?」
何とも間抜けな声を出す俺に、クスリ、と杉原は笑う。
杉原が視線を投げかけ、その先を追ってみると、ちょっとやせ細った体格の男が、パレットを持って指導していた。
「いやー、流石に最初はあんまりだったからさー。幾ら絵は自由だといっても、桜って思われなきゃアレだし……それにここまで来たらなら、ちゃんとやり遂げたいしさ!!」
「でも、何でか、本当になんでか、この学校には美術教師が居ないし(美術、音楽などは、教頭がたしなみ程度で教えています)……だから、あたしが冗談でいってみたのよね。あたしの父さん雇ってみませんかーって」
「……お前の親父さん、画家だったのか!?」
「も、あるけど、元々は高校の美術教師だったのよ。お母さんと結婚してからは、主夫として辞めたけどね。
そしたら、それも通っちゃってさー……」
衝撃な事実に、連続で驚きっぱなしである。
俺の知らないところで、一体本当に何があったんだ。
「……まあ、とにかく、お絵かき三昧よ、これから午後は」
大げさにため息をつく杉原。
しかしながら、その顔は何処か、嬉しそうだった。
きっと、今回のことで親父さんとの仲を取り戻したきっかけがあったのだろう。
フ、と笑うと、杉原は顔を赤くした。照れ隠しのように、乱暴に俺の背中を押す。
「ほら、三也沢君も手伝ってってば!! 絵が長引けば長引くほど、補習の時間も長くなるのよ!?」
「ゲ、それは勘弁」
その言葉を聞いたら立ったままじゃいられない。慌てて筆を探す。
「ほらよ!」
上田が、パッと筆を投げてきた。それを掴む。
「あんまし詳しいこと聞いてないけど、大切な奴なんだろ、その諷子ってのは」
——大切な奴。
「……ああ」
俺が返すと、上田はニッと笑っていった。
「だったら、盛大にお見舞いに行って、退院を祝ってやろうぜ!!」
「あのね、当番で、諷子さんのお見舞いにも行こうって話も上がったの! 大人数じゃ迷惑だけど、やっぱり出来るだけ多いほうがいいでしょう、お見舞いは?」
続けて、杉原がいう。
「……見舞いに、来てくれるのか?」
驚いた俺が、恐る恐る聞くと、上田と杉原、そしてその辺りで話を聞いていた奴らが、揃って笑っていった。
「あったりまえじゃないか!!」
——俺は、さっきどう思っていた?
皆が諦めているから、俺も諦めるべき?
どんなに頑張っても、助けられない?
何がだ。何処がだ。
誰も諦めてなんかいなかった。それ何処か、味方が沢山いた。
これだけの人数が居るのに、俺は、一体何を見ていたんだ。
もっと、声をかければよかったのだ。もっと、人を信じてみればよかったのだ。
助け出す方法を、もっともっと考えればよかったのだ。
判らなければ、人に聞けばよかったのだ。
フウは大切な奴だと、俺は杉原にいった。
だから必ず助け出すのだと、俺は誓った。
その意味をちゃんと理解していたのは……俺じゃなくて杉原なんて、恥ずかしい。
フウに話しかけることしか出来ない、不甲斐ない俺は、沢山の人に助けられている。
フウを諦めずに看てくれる先生が居る。美雪さんや杏平さんがいる。
一緒に助けようと、その意思に賛同してくれる奴が、こんなにも居る。
大丈夫。
まだ、間に合う。
こんだけ沢山の仲間が居れば、大丈夫。
目一杯広がる紙に向かい座ったとき、隣で杉原がこういった。
「絶対、諷子さんと一緒に花見しようね!」
平凡少女の行動に、文学青年は救われる
(ああ、と俺は返事をした)
(ずっと溜め込んでいた感情が、胸の中でこみ上げてくる)
(俺は、あまりにも幸せものだ)