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Re: *愛迷華* (実話) ( No.42 )
日時: 2013/05/05 13:57
名前: 絵磨 ◆VRtMSlYWsU (ID: xW7fLG6h)
参照: あひょひょのひょ

第二十話『喧嘩』


**


家の近くに来た時には、すっかり髪から水滴が伝っていた。
不思議と冷たさは感じられず、泣きすぎて喉の奥だけが熱かった。


そろそろ泣き止まなきゃ、家に入れないな。
そう思ったとき、


「……誠……」


誠から電話が来た。
私は数秒戸惑いながらも、ゆっくりと電話に出た。


「……もしもし……」
≪——もしもし? ……まだ外?≫
「うん……」
≪ごめんね、さっきは少し言い過ぎた≫


誠は、優しい声でそう言ってくれた。
雨でかき消されそうになるが、私は一生懸命声を絞り出す。


「……ううん、誠は悪くない。悪いのは私。ごめん」
≪謝んないでや。謝られるの嫌い≫
「……ごめん」
≪だから謝らないでってば≫
「ごめん」
≪……はぁ、だからさ。何度も言ってるべ≫
「……ごめん」


再び涙が溢れてきて、止まらなくなった。
言葉も止まらなくなり、再び誠を困らせる。


≪……はぁ……≫


電話越しの誠の溜息が、凄く大きく感じた。
……また、怒らせた。
ここにきて、改めて思い知らされた。


だけど、気付くのが遅かった。


≪もう、切っていい?≫


誠からこんな冷たい言葉が出るとは、思わなかった。
私は思わず携帯を握りしめ、声を絞り上げた。


「……え、」
≪電話。切っていい?≫
「ぇ、あ……。ご、ごめ……」
≪もういいってば≫
「……私、イライラさせることしかできてない……っ!」


感情が、溢れて止まらない。
こんなの、彼女失格だ。
私は自転車を止め、その場で泣き崩れた。


≪……何、依麻は何がしたいの≫
「……私……」
≪嫌われたいの?≫
「……っ違、」


誠から問われる、予想外の冷たい質問。
私は思わず声を張り上げるが、すぐに誠に遮られた。


≪依麻、どうなの?≫
「……ち、がう……。嫌われたく、ないよ……」
≪依麻嫌われたくないって言うけどさ、自分からそういう嫌われるように遠ざかってるんじゃん≫
「……っ」
≪……ごめん、もう切っていい?≫


誠の一言一言が、胸に刺さる。
確かに、誠から見たらそうなのかもしれない。
だけど、私にとっては——。


「離れてるわけじゃない……。でも、一緒に居たらイライラさせてる」


そこで、誠の怒鳴り声が受話器越しに響いた。
雨の音と混じる、初めて聞いた怒声。
私は茫然と立ち尽くし、受話器を握りしめたままでいた。


≪……ごめん、何度も言うけど。電話切っていいか≫


誠の口調が、違う。
私は声が出せないまま、戸惑うしかできなかった。


≪もう、しばらく電話できる状況じゃないわ≫
「……う、……」
≪切るよ≫
「……うん、わかっ——」


ぶつっと勢いよく切れる、誠と私の連絡手段。
携帯を持つ手が、力なく下に垂れる。
携帯の画面は光っていたが、やがて光を失い真っ暗になった。


「……ごめんなさい……」


雨に打たれたまま、私は一人で呟いた。
もう、誠に届かない。
絶対嫌われた。


涙が、止まらない。


誠の矛盾も、明日のドタキャンも——。
なんで、あの時素直に受け入れることが出来なかったのだろう。
結局、誠を傷つけただけだった。
気持ち考えてなかった。


自業自得すぎる。
自業自得なのにぐちぐち考えるのは変だけど、さすがにどうしたらいいかわかんない。
謝られるの嫌かもしれないけど、
謝ることしか出来ない。


こんなことしかできないなんて、やだ。
自分でもこんな自分がやだ。



わかってるのに、言うこと聞かない。