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- Re: *愛迷華* (実話) ( No.49 )
- 日時: 2013/05/05 18:09
- 名前: 絵磨 ◆VRtMSlYWsU (ID: xW7fLG6h)
- 参照: あひょひょのひょ
第二十五話『空振り思考』
ハチへの心のモヤモヤは取れないまま、放課後。
私はすぐさま学校から出て、真っ直ぐに家に帰る事にした。
自転車で駆け抜ける下り坂は、やっぱり気持ちいい。
この坂を下っている間は、何も考えられずに爽やかな気持ちになれる……気がした。
坂を駆け下りて、家の近くまで来た時。
誠から、電話がかかってきた。
私はちょうど近くにある公園に立ち寄り、自転車を止めて電話に出た。
「もしもし?」
≪もしもし? 依麻?≫
「誠! 久しぶり〜」
≪おう、久しぶり≫
誠の、笑み混じりの優しい声。
久しぶりのその声に、思わず顔がにやける。
「誠、おめでとう!」
私は、にやけるのを抑えて精一杯の明るい声でそう言った。
しかし——、
≪……え? 何が?≫
誠の口からは、思いもよらぬ言葉が出てきた。
「え、何がって……あの、」
≪……あ、記念日? そういえば今日記念日だったね! おめでとう、何か月だっけ?≫
「……七ヶ月……」
≪あぁ、七ヶ月か〜。早いな≫
誠は軽い口調で、そう言った。
私は茫然と立ち尽くし、唇を噛み締める。
最初から記念日に無関心な人なら、わかる。
忘れられててもしょうがないって思う。
だけど、誠は毎月欠かさず『おめでとう』って言ってくれた。
だけど、今回は言ってくれなかった。
忘れられてた。
その衝撃が強すぎて、上手く言葉が出てこなかった。
しかし誠は次から次へと新しい話題を作り——。
私はそれに合わせて、無理矢理笑って頷くことしかできなかった。
≪——あのね。俺、最近女の先輩からいじられるさ≫
「……え、そうなの?」
≪でもね、俺のやってるパーカッションには女の先輩いないの。まじ男ばっかでつまんねーからね≫
誠はへらへらとした口調で、そう言った。
女の先輩……。
なんだか少し複雑な心境になりながらも、誠の話を聞いていた。
≪……あ、そういえば。最近いとこと連絡してんだけどさぁ、いとこ問題児で手に負えないらしいよ≫
「そうなの? 何情報?」
≪いとこと電話したら言ってた≫
「……え、いつ?」
≪つい最近だよ≫
つい、最近——?
そこで私の顔から笑顔が消えた。
私には連絡しなかったくせに、いとこには連絡してたの——……?
「……いとこ、可愛いの?」
思うより先に、勝手に口が動いていた。
この発言が、後から自分を苦しめるとも知らずに。
≪……可愛いんじゃない?≫
誠の、照れたような口調。
自分から聞いたはずなのに、一気に私のテンションは下がった。
≪……でも、そう言う子って化粧バリバリだから大抵可愛いよね?≫
いつの間にか、自分自身にフォローを入れるような発言をしていた。
もしかしたら私は、心の何処かで否定してほしかったのかもしれない。
可愛くない、って。
≪……いや、いとこはすっぴん≫
「え」
≪すっぴんにしたら可愛いと思うよ、……うん≫
自分自身のフォローが、ぶち壊された気がした。
途端に自分が惨めになる。
「……そうなんだ! じゃあ写メ送って」
≪わかった≫
写メ持ってるんかい。
そう心の中でツッコミを入れた後、私は頑張って笑顔に戻し、違う話題へと持っていこうとした。
「九月になったら、お祭あるよね!」
九月のメインイベントともいえる、神社のお祭り。
私はこのお祭りを、誠と二人で行くという約束を高校入る前にしていたのだ。
約束をして大分経つが、私は忘れてなんかいない。
誠も、多分覚えているはず——。
そんな些細な期待を乗せ、返事を待った。
しかし、
≪あー……。祭、一緒に行けるかまだわかんない≫
約 束 は ど こ へ ?
誠の発言に、一気に脱力した。
デリカシーがなさすぎる。
女? 可愛い? 結局ドタキャン? 口だけ?
なんだかもう、信じられない。
信じたいのに、信じられなくなってくる。
全部が積み重なって、自分が惨めになって。
思わず、泣きそうになっている自分が居た。
こんな時に、頭に浮かぶのは——。
ハチの、顔。
ハチの仕草に、ハチの声に、ハチの姿。
全てがはっきりと浮かんで、消える。
なんで、ここでハチが浮かぶんだろうね。
私が思い浮かぶべき人間は、電話の向こうに居るのに。
なかなか、届かない。