コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

だいにわ ( No.15 )
日時: 2012/11/03 22:59
名前: とろわ ◆DEbEYLffgo (ID: lyYROhnH)
参照: エルは称号【ロリコン】を手に入れた!

「はあ……」
わたしはベランダで夜空をぼぉっとながめながら、無意識にため息をつきました。
明日はいよいよ試験当日。もしかしたら、このけしきを見ることは最後になるかもしれないと思うと、むねがチクリと痛みます。
それでも、これはわたしが選んだ道。泣き言なんて言えません。それに、わたしにはエルにぃがついています。こんなに心強いものはありません。

そんなことを考えていると、真下から物音が聞こえてきました。それはどんどんこちらに近づいてきます。バサバサという羽音。きっと、この音は——
「エルにぃ、こんばんは」
「ああ。……こんな時間まで起きてないで、今日は早く寝ろ。明日寝坊したらどうするんだ」
そう言いながら、エルにぃはベランダに降り立ちました。
エルにぃは鳥型のびーすとさんの足をつかんで、ここまで昇ってきたのです。エルにぃは手をはらって、びーすとさんとお別れしました。
「えへへ……その、ねむれなくて」
「まあ、寝坊したらお兄ちゃんが起こしにきてやるけどさ。布団に潜るぐらいはしたほうがいいぞ」
エルにぃはやわらかなえみでわらってわたしの頭をなでます。
「くるるー……。ところで、エルにぃ」「んあ、大丈夫だ。ていうか、その為に鳥型ビースト操ってきたんだからな」
そういうと、エルにぃは悲しそうにほほえみました。

エルにぃは、なぜか自分が【びーすとていまー】であることを、村のみんなにかくしています。
わたしもそのことを知ったのは、わたしがエルにぃにびーすとていまーになりたいと言ってからなので、もしかしたらずっとかくすつもりだったのかもしれません。
そのことについてたずねると、エルにぃは決まって困ったようなえみをうかべて何も話しません。なので、わたしはそれにふれないようにしてきました。
「ところで、短剣の手入れはしたか? もし一人の時にビーストに襲われるようなことがあったら、それで戦うことになるんだからな。毎日念入りに……」「大丈夫です。——つい、不安で何回もやりましたから」
「全く、コメットらしくて可愛いなぁ」
エルにぃはそう言って、わたしをぎゅっとだきしめました。
「わ、わわ」
「っと、ごめんなコメット。でも、しばらくこうさせてくれないか」
エルにぃはか細い声でそう言います。わたしは断れず、ただコクリとうなずきました。
「——お前のことは、必ず守る。武器なんて使わないように、俺が……絶対あいつらには渡さないんだ、俺が守るんだ…………」
「…………?」
エルにぃの手がふるえているのに気づいて、わたしはだまって手をおきました。
エルにぃはやわらかくほほえんだ後、しばらくしてゆっくりと手を離しました。



「それじゃあ、お兄ちゃんとお荷物チェックたーいむ」
「いえーい、くるるー!」
外にずっといるのもアレだったので、わたしはエルにぃを部屋にまねき、そうして荷物検査をすることになりました。
「まずは鞄だな。大抵の試験は実技だ。人が住む場所以外の所——フィールドでなにかを行う場合が多い。多分、今回もそうなると思うから、小さめのポーチとかがいいな」
「はい、それは用意してありますっ」
「おー、コメットは偉いなぁ。——で、次は護身用の武器。コメットは短剣だよな。使い方は覚えているか?」
「はい、エルにぃに教わりましたから。そして毎日練習していますからっ」
「偉いなぁお前は、よしよし。——で、後は食料だな。携帯できるぐらいのサイズがいい。内容によっては長引くことがあるから、そういうのがあるといいだろう」
「なるほどー。——じゃあ、どうしましょう。今からだと……」
「安心しろ、ほれ」
エルにぃはポケットにムゾウサに手をつっこむと、かわいらしいがらのふくろにくるまれた、数個のチョコレートを取り出しました。
「こういうのは甘い方がいい。それに、甘いの好きだろ?」
「はい! エルにぃありがとうございます!」
「喜んでもらえてよかった。お兄ちゃん嬉しいぞー。……しっかし、少しは疑うことを覚えてもらいたいな」
「? どうしましたか?」
「いーや、なんでも。——で、次は飲み物……だけど、これは明日に用意する方がいいな。……そういえば、何か持っていこうと思っているものはなんだ?」
「えっと、方位磁石ですね。万が一、はぐれた場合に必要かなと」
「お、賢いなぁコメットはっ。そうそう、それと、来た道とその地形はしっかり確認しておくように。またそこを訪れるようなことがあったら使えると思うし、何かの影響によって地形が変わった場合、手懸りになるかほしれないからな」
「はい! 注意しますね」
「後は————」



「今日はありがとうございました」
わたしはぺこりと頭を下げると、エルにぃはわらいながら頭をかきました。
「ただのお兄ちゃんのお節介だ。礼なんかいらないよ。……さて、お兄ちゃんは帰るよ。お母様に見つかったら殺されちゃうからね」
「ママはそんなことしませんよー。……さようなら、また明日」
「ああ、じゃあな」
エルにぃはそう言うと、ベランダから飛びおりて、しなやかに着地した後、すたすたと自分の家にもどっていきました。
わたしはすがたが見えなくなるまで、ずっと手をふっていました。



「すっかり早起きしてしまいました……」
時刻は五時半。エルにぃとの集合時間は八時なので、まだ二時間と三十分も時間にヨユーがあります。
わたしはきがえをして、かみをとかし、荷物の最終チェックをした後、いつものように鳥さんたちにご飯をあげました。
「……って、どうかしましたか、リネア」
鳥型のびーすとでわたしの一番の友達、リネアが、わたしのほほにすりすりと顔をこすりつけました。
「もう、リネア。いきなりなんですか」
わたしがくすぐったそうにそう言うと、リネアはあたたかいえみをうかべてわたしの目をまっすぐ見ました。
『……コメット。そんな心配そうな顔をしないで。大丈夫、ぼくらがついているよ。この国の鳥型ビーストたちは、皆きみのことを知っていて、皆きみのことが大好きだから。何かあったら、ぼくや仲間たちに頼るといい。できることなら何でもサポートするから』
他の人からすると鳴き声にしか聞こえないという、その言葉が、わたしの胸にひびきます。
「リネア……」
おもわずなみだを流しそうになったのを、ほおをたたいてひっこめました。
「わたしが弱気になっていたら、エルにぃやママ、そうしてびーすとさんたちも悲しんじゃいますよね。……ありがとう、リネア。わたしがんばります!」
『ああ、きっときみなら合格するよ』
なんだかその言葉が、すうっとむねにはいったような気がしました。




「おはよ、コメット。って、リネアも一緒?」
「はい! やっぱり、わたしの友達……いえ、パートナーはリネアですから」
かたに乗っているリネアは、なんとなくうなずいているように見えました。
「そっか。……ようし、じゃあ、出発するか!」
「おー!! 合格目指してがんばります!」

————そうして、長い、長い一日が、始まったのです。