コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- だいさんわ ( No.22 )
- 日時: 2012/11/15 18:35
- 名前: とろわ ◆DEbEYLffgo (ID: PSM/zF.z)
- 参照: エルは称号【謎めいたマスターランク】を手に入れた!
とうとう、このギルド【サリエル】の、ビーストテイマー採用試験が始まる。
この試験は、ビーストテイマー——特に、【ゼロ】と呼ばれる、正式にビーストテイマーであると認められていない人間にとってはかなり重要なものになる。
ゼロと正式なビーストテイマーは、ビーストテイマーを管轄する総本部——【アッラー】が認めたか認めていないかによって区別される。
正式に認めてもらう為には、本部で年に数回ある試験に合格するか(こちらは少数派。本部はひとつしかないので遠くの国の人間には通い辛いだけでなく、ここで合格すると半ば強制的に本部の者にされてしまう為、自由度は少ない)、各国に存在するギルドの採用試験で合格するか(これが大半。ちなみに、ギルドによって合格基準はバラバラで、基準やら規則やらを目当てに他国から訪れる者も少なくない)のどちらかをしなければいけない。
そして俺————【マリア=ゲノワール】は、このギルドのNo.5のビーストテイマーであり、試験官の一人である。
俺は、今回視ることになる人間はどんなものなのかと期待に胸を膨らませるのと同じぐらい、疑念がぐるぐると渦巻いていた。
いつもはこんなことないのに、今回だけは違った。
その原因は、昨晩のこと……
「マリア。この二人が、今回貴女が視る受験者よ」
淡い桃色の髪を掻き上げて、俺に二枚の紙を差し出したのは、俺の親友であり、ギルド【サリエル】のリーダーのサポート役である【ヴェデーレ・シャルル】であった。
「ああ、ありがとうな」
俺はそれを受け取って、読もうとした直後、ヴェデーレは俺の頬をぷにぷにと指で押した。
なんだよ、と思ってヴェデーレの方に顔を向けると、ヴェデーレは、怒っているような、呆れているような表情で俺を睨んでいた。
……また、あれか。
「あのね、マリア。貴女はもう一人前のレディなの。なのに、その口調。男そのものじゃないの。もっとお上品な言葉遣いにしなさいって昔からずーっと言っているでしょう」
「別にいいだろう、女らしくなくても」
「そーれーにー。その格好! いい加減その男装やめなさい。体型とか顔の作りとかはいいのに、どうして止めないんだか……」
「仕方がないだろう。これと共にビーストと駆け回るには、これじゃあないと落ち着かない」
そう言って、俺は相棒——ブロードソードが大事にしまってある鞘をそっと撫でた。
「全く、ほんっとにこの事に関しては聞き分けがないんだから……」
お前は母親かよ、と脳内でツッコミをいれて、ヴェデーレを見つめる。
俺よりも一回りぐらい背が低い彼女の絹のような繊細な髪は、そういうものに疎い俺でも綺麗だ、と思う。俺は邪魔になるので伸びるとすぐ切ってしまい、いつも男のようなヘアースタイルになってしまう。まあ、別に髪なんて気にしちゃいないんだがな。メイクもほとんどしたことないし。
それだけでなく、紫苑色の瞳も宝石のようで美しい。昔から綺麗な奴だとは思っていたが、ここ最近でますます綺麗さに磨きがかかった気がする。
「————りあ、マリア?」
「——っ、ああ、すまない」
首をかしげるヴェデーレの様子ではっと我にかえり、俺は資料を読んだ。
一人はここよりも北西の国【ブラン】の者らしい。あちらの方にもギルドはあると思うが……恐らく、ここの方針に惹かれてやってきたのだろう。そういうことは少なくないから、俺はただ黙って項目を読んだ。
しかし、もう一人の方には——思わず声を上げてしまった。
「なあ、ヴェデーレ、これって、」
俺はとある項目を指差しながら、ヴェデーレの名を呼ぶ。
「どうしたの……って、」
ヴェデーレは俺の肩から首をひょっこりと出して覗きこむと、不思議そうな表情で俺の顔を見つめた。
「これ……って、どういう、こと?」
ヴェデーレが首をかしげてそう言った後、俺は黙ってとある項目を指差した。
俺が指差した場所は、名前と出身地の部分。
そこには、こう書かれてあった。
【国:フライハイト スペアミント村出身】
ここは、俺の出身地と同じであった。
しかし、それだけならまだいい。知らない間にビーストテイマーの資格が在るものが生まれていたのか、と喜べる。
しかし、名前に違和感があった。
【名:コメット・プリエール】
——プリエール、それは俺【も】よく知っている人の名だ。
しかし、娘がいたとは知らなかった……いや、実際には————
……どうして、この名前が?
*
二時間ほどかけて歩き、わたしたちはぎるど【さりえる】のほんきょちで、ふらいはいと第二の都市、【くれない】に到着しました。リネアは途中までいっしょにいましたが、どうやら街中が落ち着かないようで、いったん別れて、今はエルにぃと二人きりです。
道中で野性のびーすとさんがおそってきたりしましたが、エルにぃとそのびーすとさんが次々とたおしていったおかげで、ケガもチコクもなく、むしろ少し時間にヨユウがあるぐらいです。
そして今、わたしたちは真っ先にぎるどへ向かい、受付をしてから街をぶらぶら歩くことになり、エルにぃが受付をしにいっている間、わたしはひとり、ゲンカンの前で待っています。
特にすることもなかったので、わたしは荷物チェックをしていると、「あっ」いくつか木の実がはいった袋を落としてしまいました。
「あう、あれっ」
袋はころころと坂道をすべりおちるかのように転がっていき、わたしはそれをおいかけます。
すると、袋は女の人の足元で動きを止め、女の人はそれを拾いあげました。
「——なんですの、これ」
「あ、それ、わたしのです」
いぶかしげに袋を見つめる女の人に声をかけると、女の人は目を細めてわたしの顔を見ました。
「あら、そうでしたの。……物を落としたらいけませんわよ。もし、相手がこそ泥だったらどうするんですの」
「ありがとうございます!」
やれやれといった表情で、わたしに袋をわたしてくれました。わたしはぺこりと頭を下げてお礼をいいました。
「ところで、貴女は受験者の方の妹さんですの? きっと心配してきますわよ。戻ったらどうですの?」
その言葉に、わたしはいっしゅんハッとしましたが、わたしは女の人の目をまっすぐ見て、
「いいえ、わたしも受験を受けにきました」
と言いました。
すると、女の人はどぎもをぬかれたような顔で、ぼうぜんとしました。
しばらくすると、目付きがきびしいものに変わり、わたしの顔をじっくりと観察しているような目で見ました。
「……貴女、年齢は?」
「今年で、十歳になります」
そう言うと、目付きはよりするどいものへと変わりました。
「——貴女、自分の言っていることがわかっていますの? いくら受けられる最低の年齢が十だからと言って、その年齢で受けようと思う人間なんてそうはいませんわ。親元を離れ、厳しい修行に耐えて、お金を稼がなければいけない、過酷なものなのですわよ。そんな年で、」「わたしは本気です」
わたしはきっぱりと言いました。
「わたしはまだ小さいし、他の方にもメイワクをかけてしまうことだってきっとあると思います。……それでも、わたしはエルにぃ(あのひと)のようなりっぱなびーすとていまーになりたい。——夢を現実のものにしたいんです」
女の人はしばらくだまっていました。
そうして、目をそらして、ぼそりとつぶやきました。
「————現実は厳しく、いたくてつらい。そんなことも知らないような年の子に、分かる筈ありませんわ……」
なんと言ったのかはうまく聞き取れませんでしたが、ぎゅっとにのうでをにぎりしめている姿と、さびしげな表情は目に痛いほど焼きつきました。
「……まあ、現実の厳しさを痛感すればよいですわ。夢見るだけじゃうまくいかないことを」
「はい。お互いがんばりましょう」
「……貴女ね、自分の言われたことを理解していますの?」
「そのつもりです。でも、あなたみたいな優しい人が落ちてしまうのは、悲しいことだから」
「はあ、どうしようもない、ばかなこですわね。でも、私は絶対に合格してみせますわ。精々、貴女も頑張ることね」
「はい!」
わたしがそう元気よく返事をすると、あきれた顔をして、すたすたとどこかへ行ってしまいました。
「……また、会えるといいなぁ」
わたしはその背中を見ながら、すなおにそう思いました。