コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- だいよんわ ( No.26 )
- 日時: 2012/11/22 18:28
- 名前: とろわ ◆DEbEYLffgo (ID: gz2yfhrF)
- 参照: コメットは称号【ばかなこ】を手に入れた!
しばらくして、エルにぃはよろよろとこちらに向かってきました。
どうしたのかと思ってよく見てみると、エルにぃのほほには——なぐられたあとがありました。
「エルにぃ! 大丈夫ですか!?」
わたしがそうさけぶと、エルにぃは苦笑いしてこくりとうなずきました。
「あはは、お兄ちゃんは全ッッ然問題ないよ。へーきへーき」
「問題がなかったら、そんなケガをおうはずがないですっ、くるーっ」
「て言われてもなぁ……」
言葉をにごすエルにぃをコーギの目で見続けている内に、エルにぃがやれやれといった表情になりました。
「ん、あー……じゃあ、正直に話すとするよ。殴り合いの喧嘩をしている輩がいてね、それの仲裁をしようとしたら、見事にこの通り」
エルにぃは自分のほほを指差しながら言いました。
「それは、大変でしたね……」
「でも、仲直りしたみたいだから問題ないさ。ってか、別に俺の事はいいだろう。肝心なのはこれからのコメットのことだ」
そう言うと、エルにぃはまっすぐとわたしの目を見ました。わたしも同じようにみつめます。
「後一時間したら、このギルドの近くの森で試験を行うらしい。内容はわからないが、きっとコメットならなんとかなると思うぞ」
「一時間後……どきどきします」
そう言うと、エルにぃがゆかいそうに笑いました。
「ったく、そんなに緊張しなくても平気だよ。——そうだ、なんか旨いもんでも食うか。ここの名物の山菜クレープは病みつきになる味だぜ」
そう言うと、エルにぃはニッと笑ってわたしの腕を引っ張りました。
「一時間なら多分、間に合う筈だ。なんせすぐだしな。……お前にとっては初めての都会探索なんだ、楽しんでいこーぜっ」
「はいっ!」
エルにぃの笑顔のおかげで、キンチョーが少しほぐれたような気がしました。
*
「これが、この街のシンボルマークともいえる、時計台だ。でけーよなぁ」
「うわー、ほんとにおっきいですね!」
わたしは時計台をじっと見上げていました。
レンガ造りのオシャレな時計台は、確かに一番目立っています。太陽光をあびて金にかがやく秒針が、チクタクといそがしそうにまわって、この街のひとびとに時刻をお知らせしていました。
「で、あっちにある店の山菜クレープが一番人気なんだ」
「そうなんですかー……。エルにぃ」
「ん?」
「エルにぃは、この街についてくわしいんですね」
そう言うと、エルにぃはいっしゅんギョッとしたように目を丸くしました。
「え? ——あ、ああ、何度が任務で訪れたことがあるからな。そして、よくクレープを食べてた」
エルにぃは目を細めて時計台をみつめました。
「懐かしいな……。あいつら、元気にやってっかなぁ」
きっと、前にショゾクしていたぎるどのめんばーさんのことを想っているのでしょう。その、やさしげな横顔からなんとなく伝わりました。
——エルにぃはますたーらんくのびーすとていまーであることは教えてくれたのですが、それ以外は何も教えてくれません。どこのぎるどにいたのか。どんなびーすとさんがパートナーなのか。……どうして、今はびーすとていまーのお仕事をイチジキューカしているのか。
「——エルにぃ?」「あー、クレープクレープ。早く買って、さっさとくっちまおうぜ」
そういうと、エルにぃはポケットに手をつっこんで、お金を取り出しました。
「その……わりぃけど、買ってきてくれないか? コメットの分だけでいいからさ」
エルにぃは髪の毛をくるくるといじりながら、申し訳なさそうに言いました。
「ええ、大丈夫ですよ。でも、エルにぃはいいんですか?」
「ああ、俺はいいよ。ほぅら、早く買っておいで」
「わかりました!」
わたしはすたすたとお店に向かって走りました。
「山菜クレープって、こんなかんじなんですねぇ」
わたしはできたてホカホカの山菜クレープのにおいをクンクンとかぎながら、エルにぃにそう言いました。
「ああ。——しっかし久々に見たなぁ。なんも変わってないのな。それがまたいいんだろうけど」
ほら、食べな、とエルにぃに言われて、わたしは一口ほおばりました。
口の中に広がる、あまからいソースの味と、山菜とお肉がゼツミョーにからみあっていて、わたしはすっかり気に入りました。
「くるるー! とってもおいしいです!」
「そうかそうか、よかったよかった。なんでも、東方の国にある【お好み焼き】と味が似ているっていうぜ」
「オコノミヤキでふか。なんだかほいひほうえふねぇ」
「っと、口の周りにソースがついてるぞ。お兄ちゃんが拭いてやるな」
「あいはほーほあいはふっ」
エルにぃはハンカチでごしごしとわたしの顔をふいた後、時計台の方を見ました。
「……ちょうどいいぐらいだな。飲み物買ってくるな。それ食べ終わったら、集合場所へ向かおう」
「はいっ」
わたしはコクリとうなずいて、山菜クレープをのこさず食べました。
*
「どうやら、ここみたいだな」
エルにぃについてしばらく歩いていると、木々がうっそうと生いしげる、おっきな森——ツーショウ【まいかの森】にたどり着きまました。
耳をすませてみると、鳥型のびーすとさんがあちこちで鳴いています。さきほど合流したリネアも、それにつられて鳴いていました。
「ここで、わたしの運命が決まるのですね」
わたしがそう言うと、エルにぃはクスクスと笑いました。
「くる、なにかおかしいこと言いましたか?」
「っく、そりゃあ大袈裟だって、チャンスはまだあるんだから——さて、お兄ちゃんは一旦退散するよ」
そういうと、エルにぃはわたしの肩をぽんとたたきました。
「頑張れ」
「がんばります!」
わたしの表情をみて安心したのか、にこりとほほえんで、エルにぃは来た道を引き返していきました。
——絶対合格します、わたしをしんじてください。エルにぃ。
わたしは心の奥底でそうつぶやきました。
——その直後に、背後からカサカサと草がゆれる音がしました。
わたしははっとふりむくと、そこには——先程わたしが落とした木の実ぶくろを拾ってくれた、女の人が立っていました。
そして、女の人によりそうようかのように、犬型のびーすとさんもいました。おそらく、わたしとリネアのような、正式ではないものの、心が通じあっているパートナーさんなんだと思います。
「あ、先程の……」「わたくしを……、私を馬鹿にしているんですのッッ」
女の人はそうさけぶと、わたしをキッとにらみました。
「こんな小さな子供相手に、私が? こんなのふざけているとしか思えませんわ。こんなの、私の努力を馬鹿にしているとしか思えませんわ!!」
わたしはビクリと体をふるわせました。
あまりのけんまくに、わたしは何も言えなくなって、こわさとさびしさがおそいかかってきました。
リネアはそんなわたしを心配してか、そっとよりそいました。
こんな時にエルにぃがいたら……。
そう、何かにあまえてしまいたくなってしまったしゅんかん、りんとした声がひびきわたりました。
「馬鹿になんかしていないよ」
わたしも女の人も、同時に声の方向へ体を向けると、そこには馬に乗った——まるでおとぎばなしに出てきそうなフンイキの方がしかいにうつりました。
「これは試験だ。年齢や生い立ちなんて関係ない。……それに、君はうちのギルドの方針をわかっていない訳ないだろう?」
馬からユーガにおりて、その方は近づいてきます。
「ですが、これって……」
「うちは実力主義だ。できる人間だけが上へ上り詰めていくところで、年齢などなんら問題もないだろう」
そう言われて、女の人はキッとくちびるをかみしめました。
「後、試験前からトラブルを起こすのは違反行為だ。それ以上は止めてもらおう。——これは、ギルド【サリエル】のメンバーであり、今回の試験の試験官、【マリア=ゲノワール】の命令だ」
そう言うと、マリアさん——男の人にも見える、たんせいな顔立ちの女の人は、口元にえみをうかべました。
「……まあ、そうならない方がお互いの為にもなるだろう。それ以上は控えてもらえると助かる」
そう言うと、女の人——今回の試験をいっしょに受けるライバルさんはフクザツそうな表情で「……すみませんでした」と呟いて頭を下げました。